2013年3月5〜6日

「国土地理院発行の2万5千分の1地形図
(二本松・安達太良山)」
ルートタイム
安達太良山は通年営業しているくろがね小屋のおかげで、比較的初心者でも冬季に登りやすい山として知られている。
山頂だけが目的ならあだたら高原スキー場のゴンドラ利用で、余裕で日帰り往復が可能だし、今回私が歩いた周回ルートでも早朝に出発すれば日帰りで踏破することも難しくはない。
とはいえ、温泉に入り放題のくろがね小屋を利用しない手はなく、またくろがね小屋に一泊することで1日の行動時間を短縮した非常に楽な雪山登山が楽しめる。
普段あまり山小屋を利用しない私だが、今回は温泉を目当てにくろがね小屋を利用して、のんびりと雪山を楽しむ計画を立てた。
1泊2日の小屋泊まりなら初日のルートは3時間程度。
いつもなら夜中に出発し、早朝から登り始める私だが、あまり小屋に早く着きすぎても仕方がないので、のんびりと出発。朝食もサービスエリアで豚汁定食をたらふく食べ、東北自動車道を二本松ICで降りて20分ほどであだたら高原スキー場の駐車場に到着した。
予定していた奥岳登山口はこのスキー場にある。
のんびりと準備をして歩き始めたのが10時30分頃であった。
1日目
安達太良高原スキー場のレストハウスの下に登山口の標が立つ。
そこを通り過ぎて奥に見える建物の横に入山届のポストがある。
入山届を出し、歩き出す。道はスキー場のすぐ脇を登る。
ほどなく、道はスキー場から離れ、気持ちのよい一本道になる。雪は適度に踏み固められ、すこぶる歩きやすい。道はいくらか登ってはいるが、傾斜は僅かであり、まだアイゼンの必要もなさそうだ。
ほどなく、旧道と馬車道に道が分かれる。
旧道の方が距離が短いのだが、馬車道の方にはほとんどトレースがない。少しはトレースのない道も歩きたかったので、とりあえず馬車道を選択する。
10分ほど歩くと旧道と交差するところがある。そのまま馬車道を行きかけたが、今度は旧道の方が急登で面白そうだったので、今度は旧道へ。
雪はそれほど固くなく、アイゼンなしでもキックステップがよく効いた。
歩き始めた時には少し風があり寒かったが、すぐに風も止まり、日差しも強く、すこぶる暑い。
昼時も近くなったので、良さそうな場所を見つけてザックを下ろし、防寒着を脱ぐと涼しくて気持ちがよい。
シャツ一枚になって涼みながらカロリーメイトを齧って昼飯代わりにし、一息入れる。
この先は少し傾斜が出てきそうなのでアイゼンを履き、防寒着のフリースのライナーを外す。
ザックを担いで歩き出そうとする頃、5人ほどの若い登山者が追いついて来た。
どうやら2人と3人の2つのパーティのようだ。2人の方は男女。3人の方は女性2人と男性1人。皆くろがね小屋泊まりのようで、ルートは同じだ。
彼らも休憩をするようなので、休憩を終えた私は一足先に出発する。
このあたりは日当りのよいダケカンバの林だ。
インナーを一枚脱いで暑さからも解放され、足取りも軽い。
ところが、ほどなくダケカンバの林を抜け、勢至平に出る。
この辺りから雲がたれ込め、同時に冷たい風が強くなった。
急激に寒くなり、さっき外した防寒着のインナーをつけ直す。同時に、インナーだけで充分だったグローブも慌ててアウターを出して嵌めた。
ついさっきまで春山のようだったのが、あっという間に厳冬期に早変わりだ。
身支度を整えている間に、さっきの5人が追いついて来た。
それからは私を含め6人で後になり先になりしながら小屋を目指す。
いつしか道は湯川の谷の上をトラバースして行く。
谷向こうの山の景色が雪風に煙っているのが山水画のようでまた見事だ。
3カ所ほど、枝沢を渡るが、枝沢は吹きだまりになっており、雪が深い。
雪まじりの強風も重なり、慣れない人はだいぶ苦労しているようだ。
ふと気がつくとガスの中に見えるのは、今日の目的地、くろがね小屋の姿だ。
小屋の周囲には温泉の熱で雪が溶けている箇所がいくつかある。
危険なので近づかないよう看板が立っているが、歩いていても硫黄の匂いが漂ってくる。
ちょうど13時頃、くろがね小屋に到着。
とても雰囲気のある清潔な小屋で、居心地の良さは最高だ。
左は私の泊まった6号室。6人部屋を一人で占領させてもらった。
管理人は3交代とのことだが、この日の担当の管理人さんはユーモアたっぷりのとても話しやすい方。何と私と同い年とのことで、すっかり気が合って意気投合。
この日の泊まり客は私を含め、12人ほど。どうやら私と管理人さんが一番年長のようだ。
時間はたっぷりあるので、皆とそれぞれ話したが、中でも来る途中一緒になった男女のパーティと気が合い、ずいぶんと登山談義に花を咲かせた。
また、温泉は入り放題なので、気が向いたら入りに行けるのが嬉しい。湯の花がたっぷりと踊る湯につかり、暑くなると、窓を開け、雪山を眺めながら露天風呂の雰囲気を楽しむ。
ここは自炊も可能で、先の2人のパーティは食材を用意して来て豪華な夕食を楽しんでいたが、私は今回は夕食と朝食は頼んでいた。
夕飯はカレーライス。これがなかなかの味で、年甲斐もなく、若い人たちを差し置いておかわりをしてしまう。
その後は、三々五々、食堂で酒を飲むパーティもあり、部屋で談笑するパーティもあり。私はもう一度温泉に入って暖まって寝ることにする。
寝る時は温泉で体も温まっており、ストーブも点いていたので寒くはなかったが、夜半過ぎ頃、寒さで目を覚ました。
相変わらず風は強く、谷を抜ける風の切り裂くような音が響き渡っている。
脱いだベストのポケットに入っているZipooのカイロを触ってみるとまだ暖かかったので、それをシャツの胸ポケット入れて心臓付近を暖める。しばらくすると暖まった血液が全身に回り、再び私は眠りに落ちた。
2日目
5時頃目を覚ます。まだ誰も起きている気配はない。カイロはまだ充分に暖かく、起きようという気持ちとまだ寝ていたい気持ちがせめぎ合って布団の中でだらだらしていると、管理人さんがストーブに石炭を入れている音が聞こえて来た。
それをきっかけに私も布団から抜け出す。
起きた時はまだ暗かったが、しばらくすると東の山間が燃え始め、少しだがモルゲンロートを楽しむことができた。
外に出て撮影と朝の風景をしばし楽しむ。相変わらず風は強いが、全く雲のない快晴だ。管理人さんによればこれほどの好天気は久しぶりだとのこと。
小屋に戻ってコーヒーを飲んでいるうちに朝食の声がかかる。
朝食はそこらの民宿真っ青の豪華なメニューで、特に温泉たまごが嬉しい。
食後は少し休憩した後、荷物をまとめ、管理人さんに見送られて出発。昨日一緒に歩いた2人と3人のパーティもほぼ同時に出発した。
楽しかった小屋に別れを告げる。
鉄山がきれいに見えている。
左上に見えているのは雲ではなく、風に巻き上げられた雪煙だ。
天気は良いがとにかく風が強い。
まるで竜巻のように雪煙が舞い上がる。
小屋で仲良くなった2人のパーティ。ルートは一緒なので、時々声を掛け合いながら付かず離れずと言った感じで歩いて行く。
ゆるやかなアップダウンを繰り返しながらたおやかな雪原を歩く。先に乳首と呼ばれる山頂が見えて来た。
風が強いため、不思議なシュカブラが姿を現す。
こういうのもシュカブラというのだろうか。スノーシューで踏まれた雪が固まり、周りの雪が風で飛んで足跡が浮き上がっている。
この谷を下って登り返せば山頂は目の前だ。
振り返ると、少し遅れて出発した3人組のパーティもやってくる。
最後の登りをつめて肩に出ると、これまでの風がそよ風に思えるほどの強風である。
耐風姿勢をとり、風の弱まった隙をついて少しずつ進む。
油断していたらあっという間にニット帽を飛ばされてしまった。
肩から山頂はすぐそこなのだが、なかなかの急峻な岩稜で、この強風の中では少々危険すら感じる。
先の2人と一緒に風の合間を縫いながら注意深く岩稜を登り、山頂へ。
あっという間だったが緊張感のある登りを経て辿り着いた山頂は嬉しい。思わず3人で握手を交わし、記念撮影。
少しの間山頂からの眺望を楽しむが、後続の3人組が肩まで辿り着いたので、狭い山頂を譲るべく、下ることにする。
ここからは、東側に下り、五葉松平を経由してあだたら高原スキー場へと下る予定だ。
一緒に山頂に登った二人も同じ計画とのことなので、もう小屋からすっかり打ち解けていた我々は一緒に下ることにした。
しばらくの間、気持ちのよい大雪原を下る。
登りはどうしても下を見ながら登ってしまうが、下りは歩きながら景色が楽しめるので、楽しい。
歩いていると、登ってくる人たちとずいぶんすれ違った。こちらのルートだとゴンドラ利用で比較的楽に日帰り登山が楽しめる。
彼らと挨拶を交わしながら足取りも軽く下って行く。
風はまだ強いが、山頂直下に比べればだいぶ落ち着いている。
景色を眺めながらのんびりと歩いていると30分ほどであだたらエキスプレス(ゴンドラ)山頂駅に到着。
どうやら強風のためにゴンドラは動いていないようだ。もともとゴンドラを利用するつもりはなかったのだが、駅の係員の方が利用客と思い、しきりに謝ってくれる。
「登山道を下るつもりなので大丈夫ですよ」と言うと、登山道はまったくトレースがないとのことで、スノーシューもワカンもない我々はラッセルをしなければならない。
時間はあるしそれも一興と思ったが、係員の方が「どうぞゲレンデの端を下ってください」と言ってくれるので、甘えてそうさせてもらうことにした。
上級者コースの急斜面を下る。
ここに来てまた風が強まり、時折突風が吹く。一度など3人ともなぎ倒されたほどだ。うまいぐあいに尻餅をつく形になり、アイゼンとピッケルのおかげで滑落は免れたが、少々ヒヤッとした瞬間だった。
ゲレンデの上の方はゴンドラが動いていないためスキーヤーやスノーボーダーはいなかったが、下の方に来ると彼らに注意しながら歩かなければならない。
といってもそれほど混んでいるわけでもなく、ゲレンデを歩くこと1時間ほどで登山口に到着。
ポストに下山届を提出して、スキー場のレストハウスで休憩する。
今回は珍しく友人ができて、とても楽しい山行となった。これも山小屋の醍醐味とでもいうのだろうか。
山小屋では全員が共通の話題があるため、気が合えばあっという間に打ち解ける。普段はテントを担いで一人で歩くことを好む私にも、このくろがね小屋はとても楽しい時間を与えてくれた。
一緒に山頂に立ち、下山したお二人と、くねがね小屋管理人さんには心からお礼を言いたい。