山径独歩(やまみちひとりあるき)
2011年4月29〜30日

「国土地理院発行の2万5千分の1地形図
(会津駒ヶ岳)」

ルートタイム

1日目

1  駐車場出発       08:30
2  会津駒ヶ岳登山口    11:15     
3  駒の小屋   16:00     

2日目

3  駒の小屋        08:00
4  駐車場   11:00     

 今シーズンの締めくくりにもう一度雪山に行きたくて、ゴールデンウィークあたりに良さそうな山を探していると、会津駒ヶ岳という山が目に止まった。
 調べてみると頂上付近に駒の小屋という山小屋があり、ちょうどゴールデンウィークあたりから営業を始めるという。
 また、道筋の目印などもしっかりしているようで、これなら安心と思い、ここに決めることにした。
 今回も例によって次女が行きたがったので、駒の小屋に2人予約のメールを入れると、とても親しみ深い親切な返事である。なんだかとても楽しみになって来た。

 当日は朝4時に家を出発し、滝沢登山道の入り口に8時過ぎに到着。
 雪がなければここからさらに奥の登山口まで車で行けるようだが、今年は雪が多く、車は国道から入ってすぐの所に停める。
 すでに6〜7台の車が入っており、なんとか1台分開いていた所に停めることができたが、ここが一杯でも、近くのテニスコート脇に登山客用の駐車場もあるようだ。
 何人かめいめいの車のそばで準備に余念がない様子だったが、ほとんどが山スキーのようである。
 我々も早速準備に取りかかった。

1日目

会津駒ヶ岳
会津駒ヶ岳
 まだ除雪の進まない車道を歩き始める。
 道に沿って流れる下の沢の雪解け水が美しい。
会津駒ヶ岳
 調子良く歩いていたら大失敗をしてしまった。
 ちょうど竜ノ門の滝へ行く分岐の所で、登山口への車道にデブリが出て道を塞いでおり、そこに道があることに気付かずに竜ノ門の滝方面へと曲がってしまったのだ。
 ここでけっこう間違える人が多いらしく、踏み跡もしっかりとそちらに着いており、我々は何の疑いもなく先行者のトレースを踏んで全く違う斜面を登り始めてしまったのだ。
 しばらく登って行くとトレースは左側の尾根に上がっている。我々も上がってみたが、とてもその先に進めるような場所ではなく、ようやくおかしいぞと気がついた。
 地図で確認するとやはり違っているようだ。
 もっと早く気付くべきだったのだが、仕方がない。元来た道を下り、正しい道を探すが見つからない。
 まさか地図が間違っているわけはないのだが、なぜ続いているべき車道がないのか。
 地図と地形を一所懸命見比べていると、もしかしてこのデブリの下に道が埋まっているのではないかとやっと気がついた。
 デブリを越えてみるとそこには道が…。
 ほっと胸を撫で下ろして、車道を進み、登山口に着いたときにはすでに11時を過ぎていた。
 なんと2時間半近くもロスしてしまったのである。
会津駒ヶ岳
会津駒ヶ岳
 やっと到着した登山口。だが、この時点で我々はだいぶ体力を消耗してしまっていた。
 ここからしばらくは雪もなさそうなので、ここでアイゼンを一旦外す。
 30分ほど登るとまた登山道が雪に覆われ始めた。どうやらここからはずっと雪のようだ。

 ちょうどそこに倒木があったので腰をかけ、昼食を摂ることにした。
 私一人なら行動食で済ましてしまう所だが、食べ盛りの中学生はそうもいかず、インスタントラーメンを作ることにする。
 水を節約しようと雪を溶かしてみたが、この時期の雪は掘っても細かいゴミが混じり、あまり気分が良くない。もっと標高の高い所ならまだしも、1,000mそこそこのこのあたりではすでに木々の活動も始まり、雪にゴミがたくさん混じっているのだ。
 仕方なく持って来た水を使う。水は多めに持って来ていたので、まあ大丈夫だろう。

 食べ終えてアイゼンをつけ、また歩き始める。
 まだ先は長い。

会津駒ヶ岳
会津駒ヶ岳
 それにしても急登が続く。
 この登山道は前半に急登が続くということは聞いていたが、いやはやきついのなんの。
 天気は素晴らしく良く、暑いほどだ。
 そのせいか、雪がベシャッと重くなり、アイゼンをつけた足がとても重い。まるで足におもりをつけて歩いているようだ。
 やっと急登を抜けゆるい所へ。
 しかしほっと息をつく間もなく、また断続的に急登が現れるのである。
会津駒ヶ岳
 登るにつれ、だんだん天気が怪しくなり、3分の2ほど登ったあたりからちらほらと雪が舞い始めた。
 視界もだいぶ悪くなって来ている。
 あせりと体力の消耗からか、2度ほど、木立を小屋と見間違え、ぬか喜びをすることになった。
 疲れというものは恐ろしいもので、なんでもない木立がかなりはっきりと小屋に見えてしまうのである。場合によってはそれに惑わされてルートを外れないとも限らず、気をつけなければいけないと思い知らされた。

 標高2,000mを越えたあたりで木がなくなり、雪原に出た。2度目に小屋の幻を見たのはこの地点である。
 木立を抜けた正面の100mほど先だろうか、ガスの切れ間にはっきりと小屋が見え、そちらに向かって歩き始めた。
 しかし10mほど歩いた所で踏み跡が乱れ、途切れている。不審に思ってよく目を凝らして見ると、やはり小屋ではなく、数本固まって生えている立ち木のようだ。
 慌てて見回すと、右の方にもっとはっきりした踏み跡が見え、その側にポールが立っているのが見えた。
 ポールの側まで行って踏み跡を目で追うと、濃いガスの中、10mほど先に次のポールをなんとか確認することができた。他には何も見えない。
 とにかくポールを追って歩き出す。次のポールに着くとまた次のポール。距離感がつかめず先の見えない前進はつらい。
 木立を抜けてから風が強くなり、吹雪になって来ている。
 おそらく2〜300mぐらいだったと思うが、恐ろしく長く感じられた雪原を歩き、喘ぎながら急登を登りきったとき、目の前に小屋が現れた。

 そのときの嬉しかったこと。

 疲れきった我々を駒の小屋の管理人ご夫妻と先着の登山客の皆さんが暖かく迎えてくれた。

会津駒ヶ岳
会津駒ヶ岳
 駒の小屋の談話室。
 この小屋は食事のサービスはないため、宿泊客はこの部屋に集まり、めいめい食事を作って食べながら山話に花を咲かせる。
 写真右端が管理人の三橋さんで、ご夫婦共々、豊富な経験から語られる山の話は非常に興味深い。
 自称「駒中」という常連さん。本人曰く、「駒中」とは駒ヶ岳中毒ではなく、駒の小屋中毒であるらしい。年に5〜6回は来ているという。
 なんと約20kgの荷物の大半が食糧とのことで、山小屋とは思えない豪華な食事を楽しんでいた。

 駒中さん以外の登山客の方々のメニューはほぼインスタントラーメン。我々はアルファ米にレトルトカレーをかけてカレーライスにした。
 無洗米も持って来ていたのだが、炊くのに最短でも1時間はかかるため、待ちきれなかったのだ。

 食事の後、まだまだ話の輪に加わっていたかったのだが、さすがに疲れが出て、少々早いが寝ることにした。
 薄暗いランプの明かりを頼りに荷物を片付け、午後6時、早々と布団に潜り込んだ。
 布団に入っても寒いかも…と覚悟していたのだが、これが意外に暖かく、あっという間に心地よい眠りに落ちた。

2日目

会津駒ヶ岳
会津駒ヶ岳
 目が覚めると4時過ぎだった。
 日の出は4時半過ぎと聞いていたので、ちょうどいい。
 ごそごそと布団から這い出すと、すでに何人かは起きているようだ。
 防寒着を着てカメラを持ち外に出る。
 残念ながら雲が厚く、ご来光は望めそうにない。しかし、夕べの吹雪は止み、ガスもとれて展望は開けている。
 気温は低いが風がなく、それほど寒さを感じなかったので、しばらくの間景色を眺めていた。
会津駒ヶ岳
会津駒ヶ岳
 しばらくすると、東の空が燃え始めた。
 もしかしたら雲の切れ間から朝の太陽は拝めるかもしれない。
 待った甲斐があり、少しの間だったが、太陽が顔をのぞかせてくれた。
会津駒ヶ岳
会津駒ヶ岳
 2度目に太陽が顔を出したとき、だいぶ空が広がり始めた。
 今日は晴れるかも。
 朝日を浴びる駒の小屋。
 我が娘はまだ夢の中。
会津駒ヶ岳
会津駒ヶ岳
 6時過ぎ、娘を起こし、会津駒ヶ岳山頂へのアタックに向かう。
 積雪期は駒の小屋からほぼ一直線に登れるため、山頂まで15分程度だ。
 昨日の雪とは違い、朝の雪は程よく締まってアイゼンも効き、すこぶる歩きやすい。
 見上げるとすでに一人アタックを開始していた。
会津駒ヶ岳
会津駒ヶ岳
 遠目では大したことのない斜面に見えたが、登ってみるとこれがなかなかの急登だ。
 振り返ると、目の前には燧ヶ岳、左下方には駒の小屋が眺められる。
会津駒ヶ岳
会津駒ヶ岳
 到達した会津駒ヶ岳山頂。
 風は強いが360度の展望は圧巻である。
 こちらは西側、新潟方面の山々。
 こちらは北側の、中門岳へと続く尾根。
会津駒ヶ岳
会津駒ヶ岳
 少し東よりに目を転じると、ハイマツ越しに見えるのは大戸沢岳。
 大戸沢岳の手前の斜面では雪が割れていた。もうすぐ雪崩れそうだ。
会津駒ヶ岳
 雄大な景色を眺めながら広々とした白銀の斜面をのんびりと下る。
 雪山の醍醐味の一つだ。

 小屋に戻り、朝食にする。
 メニューは定番のアルファ米、山菜おこわとガーリックピラフだ。
 山菜おこわはお湯を入れて20分置くだけで手軽なのだが、ガーリックピラフは水を入れて戻しながら炒める。手間はかかるが、こちらの方がアルファ米臭さが緩和されてうまい。
 汚れた食器はウェットティッシュでざっと拭ってしまう。山では洗い物はできないので、私はいつもこの方式だ。

 朝食を終え、荷物の整理をして、下山をすることにした。
 駒の小屋ともお別れだ。
 とても楽しい小屋で、管理人ご夫妻に「必ずまた来ます」と挨拶をして小屋を後にした。

会津駒ヶ岳
会津駒ヶ岳
 昨日、吹雪に巻かれて苦労した斜面を下り、振り返ってみる。
 こうして見るととても気持ちのいい登りだ。昨日、1本1本ポールを追いかけながら先の見えない登りに苦しんだことが嘘のようである。
 思った通り天気も上々で、昨日は楽しめなかった景色を堪能しつつの下山である。
会津駒ヶ岳
会津駒ヶ岳
 まだ9時前だというのに、朝の早い登山者とぼちぼちすれ違い始めた。
 良い天気だったのもつかの間で、1時間も歩かないうちに雲がどんよりとたれ込め、今にも降り出しそうな空模様になって来た。やはり山の天気である。
 この頃になるとかなり大勢の登山者とすれ違ったが、少々心配だ。
会津駒ヶ岳
 ヘリポート下の急斜面で、娘が軽く滑落。
 今回2度目の滑落だが、この山はそれほど危険な斜面はないので、事前に教えておいたピッケルの滑落停止の良い実習となった。

 結局、下りはあっけないほど早く、2時間半ほどで下山。小屋で教えてもらった登山口から車を駐めてある国道脇までの近道もわかった。
 登るときも近道という看板があったのを見落としていたらしい。これに気がついていれば迷うこともなかったのに、と悔やんでも後の祭り。それでもとても満足した山行だった。
山径独歩(やまみちひとりあるき)