山径独歩(やまみちひとりあるき)
2012年6月2日

「国土地理院発行の2万5千分の1地形図
(御神楽岳・狢ヶ森山)」

ルートタイム

1  登山口       05:20
2  八乙女滝    05:40     
3  八丁洗場   06:10     
4  杉山ヶ崎   07:30     
5  熊打場   08:00     
6  避難小屋   08:15  〜  08:45
7  本名御神楽山頂   09:00     
8  御神楽岳   09:45  〜  09:55
9  避難小屋   10:40  〜  11:20
10  登山口   13:15     

 御神楽岳は新潟県に位置するどちらかといえばマイナーな山だが、福島県側から登る本名御神楽ルートは、前半の渓流歩きから痩せ尾根の急登、見事なスラブを眺めながらの尾根歩きと、変化に富んだなかなか楽しい山である。
 実はこの山は7年ほど前にも一度来たことがある。
 妻と小学生の娘二人を連れて登ったのだが、この時は大失敗をした。
 子連れなので無理せずゆっくり登ろうと思い、本名御神楽山頂手前の管理小屋に泊まる一泊二日の計画だったのだが、どうせなら快適に泊まりたいとエアーマットやら寝袋やらを持って行った。
 しかし当時はまだ登山用の軽量化された道具は持っておらず、オートキャンプ用のやたらと重い安物を、これまた登山には向かない安物のザックに入れて担いだので、延々と続く急登ですっかり大バテをしてしまったのだ。
 フラフラになってやっとのことで管理小屋に辿り着き、一泊したが、朝になっても体調は戻らず、目の前の山頂を諦めてそのまま撤退したのである。
 いつかリベンジをと思っていたのだが、今回それがやっと実現した。

 前回は泊まりが前提だったので、朝のんびりと家を出て、昼前ぐらいから登り始めたが、今回は日帰りの上、前回の失敗が頭にあったので、時間に余裕を持ちたくて前日の夕方に家を出発。21時頃に到着して登山口付近に車を駐め、車内泊をすることにした。
 もう6月なのでどうかとおもったが、念のため冬用のシュラフを持って来てよかった。朝の寒いこと。温度計は6℃を指している。ほぼ冷蔵庫の中と同じである。
御神楽岳
 半分シュラフに入ったまま夕べ買っておいたおにぎりを食べ、腹ごしらえをする。
 本気で寒い。
 意を決してシュラフから這い出し、身支度をする。ウインドブレーカーを着ようかとも思ったが、歩けばすぐに暖まると思い、夏用の薄手のシャツのみで行くことにした。
 登山口のポストに入山届けを入れ、歩き始める頃には山の上の方には陽があたり始めていた。
御神楽岳
御神楽岳
 思った通り、歩き始めると体が温まってくる。気温も上昇しているようだ。渓流沿いの気持ちのよい道を行く。まだまだこのあたりはほとんど平坦で、登りはない。
 山開きを明日に控えているためだろう。道はきれいに草が刈られ、歩きやすい。
御神楽岳
御神楽岳
 20分ほど歩くと八乙女滝に出る。深山にひっそりと流れる小さな滝だが、不思議な雰囲気をたたえる美しい滝である。
御神楽岳
御神楽岳
 滝を見て少し登ると鎖場がある。それほどの高さはないが、慣れない人は多少高度感を感じるかもしれない。
 狭い足場で岩場をトラバースした後、下の河原に一気に降りる。
 岩を下り終えると、見事な渓谷が現れる。この先がさっき見た八乙女滝だ。
御神楽岳
御神楽岳
 さて反対の川上を見ると岩壁に鎖が取り付けてある。これをトラバースして進むのだ。今回は誰もいなかったが、7年前に撮った写真に子供が写っているのがあったので、ついでに載せておきたい。状況が伝わりやすいと思う。
御神楽岳
御神楽岳
 渓谷の岩場を抜けて少し行くと、ちょっとした広場に出る。ここも、山開き前日のためか、きれいに草刈りがしてあり、非常に歩きやすくなっていたが、以前来た時は8月半ば頃だったせいか、右の写真のような状態だった。
御神楽岳
御神楽岳
 渓流に沿ってつけられた径を歩いて行くと、八丁洗板という看板があった。ここは、川床が大きな一枚岩になっている。以前来た時は下山途中に裸足になって火照った足を冷やしたことを思い出す。
 なんという木なのかはわからないが、まるで南国のような雰囲気の木だ。幹周りはかなり太く、直径2m近くはありそうである。
御神楽岳
御神楽岳
 ガイドブック等にも徒渉ポイントとして紹介されているところで、確かに以前は裸足になって渡った記憶がある。今回来てみると立派な橋が架かっていて驚いた。
 気合いの入った草刈りといい、最近は登山道の整備にずいぶんと力を入れているようだ。
 本流に沿って歩いているので、枝沢を渡る箇所がいくつかあるが、ほとんどの枝沢はまだ雪渓のままであった。
御神楽岳
御神楽岳
 川沿いから離れ、急登が始まる。痩せ尾根に生い茂る木々の間を根っこを手がかりによじ上って行く。意外と長く続く急登のため、ペース配分を間違えると前回のようにバテてしまう。木々の間から時折のぞくスラブの絶景を楽しみながらのんびりと登る。
御神楽岳
 やっとの思いで杉山ケ崎に到着。ここで急登は一段落だ。
御神楽岳
御神楽岳
 杉山ケ崎からしばらく軽いアップダウンを繰り返し、熊打場に出る。結構な斜度のある長い鎖場だ。ただし、両側に草がありチムニー状になっているため恐怖感はそれほどでもない。
 それでも、意外と足場探しに苦労する岩場であり、滑落すれば無事ではすまないだろう。
 途中、鎖に捕まりながらなんとか下を撮影してみた。雰囲気が伝わるだろうか。
御神楽岳
 熊打場を過ぎるとほどなく避難小屋に到着。
 7年前にお世話になった小屋だ。ここもやはり山開き直前ためだろう、きれいに掃除がされており、気持ちがいい。
 小屋に荷物を置いて、200mほど下ったところにある水場に行くことにする。
 この水が非常に旨かった記憶があったので、楽しみにしていたのだが、降りてみると水場はまだ雪渓の下に埋まっている。それでも雪の崖の下に汲めそうなところがあったので、手近の木の枝を便りに3mほどの雪の壁を下り、水を汲む。

御神楽岳
御神楽岳
 水を汲んで小屋に戻り、小屋でしばし休息してから、再び腰を上げ、本名御神楽の山頂に向かう。15分ほど歩くと山頂が見えてくる。
 祠のところが出会いになっており、その奥が本名御神楽山頂。祠のところを左に折れると御神楽岳本峰へと続く道だ。
 本名御神楽山頂に到着。
御神楽岳
御神楽岳
 天気は最高で、本名御神楽からの眺望は圧巻であった。
御神楽岳
 御神楽岳本峰を望む。ここから見るとそれほど距離はなさそうに見える。
御神楽岳
御神楽岳
 つばくろ尾根越しに北東方面の山々を望む。
 こちらは水晶尾根のスラブだ。御神楽岳山頂ももう近い。

 誰かのサイトに、本名御神楽から御神楽岳へのルートはほとんど整備がされておらず、非常に時間がかかるということが書かれていたので、それなりの覚悟をして行ったのだが、今回はしっかりと整備がなされていた。ただ、痩せ尾根の道で、片側が切れ落ち、反対側からは枝が張り出している所が多く、枝をよけると体が崖に乗り出す形になるのが多少怖い。
 御神楽岳までは距離はたいしたことはないのだが、稜線上ではあまり見通しが利かず、小さなピークがいくつもあるため、何度も山頂と勘違いしてがっかりされられるこになる。

御神楽岳
 本名御神楽から45分ほどで御神楽岳山頂に到着。ここでコーヒーでもと思っていたが、あまり暑いのと異様に蠅が多く、早々に下山することにした。
御神楽岳
御神楽岳
 さすがに下りは早く、御神楽岳山頂から45分ほどで避難小屋に戻る。暑いので避難小屋の中で休憩をさせてもらうことにする。中はひんやりとしてとても心地よい。
 ちょうど昼時も近い時間なので、インスタントラーメンを茹で、腹ごしらえをする。ついでにコーヒーを飲み、すっかりまったりしてしまった。
 ふと、壁の黒板を見るといろいろ書いてあるのが面白い。
 ただ、「登山口1kmで熊にあいました」という書き込みにはドキッとさせられた。今日は登山客もほとんどいないし、熊が登山道付近に出没する可能性も大きそうだ。
 おかげで、ここからの下りは少々ドキドキしながら意識して熊鈴を鳴らしながら歩くことになった。

 幸い、熊に会うこともなく、長い急な下りで膝を笑わせながらどうやら登山口まで辿り着く。
 それにしても暑い。朝の寒さが嘘のようである。
 途中、八乙女滝のそばが涼しかったので休息を入れるが、滝の音で熊が人の気配に気づかずに近づいて来そうで落ち着かず、少しだけ休んでまた歩き出す。
 登山口も近くなって3人ほど、登ってくる登山者とすれ違ったが、この時間からだとおそらく避難小屋泊まりだろう。
 今回出会ったのは、結局合計4人のみ。山開き直前だからだったろうが、おかげで静かな山歩きを大いに堪能することができた。

山径独歩(やまみちひとりあるき)