2010年12月30日

「国土地理院発行の2万5千分の1地形図
(磐梯山)」
ルートタイム
2010年12月30日。雪の猫魔ヶ岳に登る。
以前からやりたかった雪山登山だが、なにしろ初の挑戦のため、あまり無理はしたくない。
今回の計画は、裏磐梯猫魔スキー場の雄国第一Aトリプルリフトを利用し、リフトの終点から尾根伝いに猫魔ヶ岳に登り、そのまま、スキー場のまわりをぐるりと一周してロッジに下山するものである。
このルートだとスキー場から遠く離れることがないため、何かあってもすぐにスキー場に降りることができるので初心者にはもってこいだと考えたのである。
しかし、12月20日を過ぎ、予定日が迫っているというのに、インターネットで積雪情報を確認するも、雪がないというではないか。しかも雪どころか大雨が降って雪が溶けているという。
こりゃ駄目かと半ば諦めていた矢先、3日ほど前になっていきなり大雨が大雪に変わった。なんと一晩で150cmも積もったという。
まったくよくわからない天気である。
とにかく雪不足の心配はなくなり、我々は12月29日、裏磐梯に向かった。
29日は家族で猫魔スキー場にてスキーを楽しみ、私はスキーをしながらも展望のよいところを探してルートの確認などをしていた。
そしていよいよ30日当日。リフト運行開始の9時を目途にスキー場に到着。
今回は、私と次女(中2)が山に入り、妻と長女(高1)はスキーをすることになっている。
一応、3台のトランシーバーを私と次女、そして妻が持ち、何かあっても連絡がとれるようにし、私と次女は2人に見送られ、スノーシューを担いでリフトへ。
いざリフトに乗ろうとしたとき、我々のいでたちを見た係の人が、
「入山届けは出されましたか?」
忘れていた。しかしどこで出すのだろう。
聞くとロッジのパトロール室で出してくれという。
出鼻をくじかれた感じだったが、ともあれ入山届けを出し、改めてリフトへ。
背中のザックが邪魔でリフトの椅子にまっすぐ座れず、体をよじってなんとか押し込むが、高速リフトなので、それほど苦労せず終点へ。
リフトを降りたところでスノーシューを装着し、いよいよ雪山へと出発である。
ここから猫魔ヶ岳山頂までは夏径ではない。ルートは自分で探さなければならないが、それも雪山の醍醐味である。
とりあえず、いけそうなルートはこの木立の中しかなかったので、そこへと向かう。
木立に入るといきなり幻想的な光景が我々を迎えてくれた。
木立に入るとすぐに突き当たり、左にルートをとる。
我々とほぼ同時に歩き始めた外国人のパーティーは右にルートをとり、雄国沼の方へ下っていった。
まもなく、木立がまばらになり、開けた場所に出た。
しかし、見通しは利かず、方角を頼りに歩きやすいルートを探して歩く。
そこらじゅうに残るウサギの足跡に混じってスノーシューの踏み跡があったので、それに沿っていくと、迷い跡だったらしく、スキー場の上の崖に出てしまった。
方角を修正し、再び歩き出す。
ふと左手を見ると、磐梯山と櫛ヶ峰がきれいに見えていた。
木立が途切れ、目の前にこれから歩くルートが一望できた。
スキー場のリフトがある手前の山を越え、尾根伝いのその奥の猫魔ヶ岳を目指す。
凍結した雄国沼越しに新潟方面の山々が一望できる。
まさに絶景である。
雪をかぶった木がまるで犬のように見える。
ちょっと顔が恐い…
雪をかぶり重く垂れ下がった枝が進路を遮る。
他の人のホームページの写真を見るともっと木がすいているように見えるのだが、やはり積雪量が多く、地面より2m近くも高い位置を歩くため、もろに木々の枝が通せんぼをする格好になってしまっているようだ。
場所によってはどうやって通ろうか行ったり来たりする場面もずいぶんあった。
ウサギの足跡やまだ新しそうな糞はそこらじゅうに残っていたが、ついにウサギそのものを見ることはできなかった。
歩いてきた道を振り返る。
なかなか距離がかせげない。
一気に積もった新雪のため、転ぶと大変である。
手をついて起き上がろうとすると、ずぶずぶと肩まで沈んでしまう。
ストックを横にして真ん中を持ち、その浮力に頼ってどうにか起き上がるしかない。
まるでスノーシューという船から水の中に落ちたようなもので、改めて雪の怖さを思い知らされた気がした。
だいぶ傾斜が出てきた。
登りになるとまた大変である。
私の70kgの体重では、スノーシューを履いていても膝あたりまで潜ってしまう。平坦ならともかく、登りになると次の足をかなり持ち上げなければならないのだ。
吹き溜まりに入るとまるで前に進めなくなるほど沈み込んでしまう。
本当に亀の歩みのような前進である。
一つ目のピークに到着。
磐梯山に雲がかかりだした。
天候の悪化が少々心配である。
前方には猫魔ヶ岳が目の前に見える。もう少しだ。
猫魔ヶ岳山頂に出る前に、木立の中の風のあたらない平らな所を選び昼食を摂ることにした。
手頃なところを踏み固め、コッヘルに雪を入れてガスバーナーで溶かし、湯を沸かす。
メニューはフリーズドライの山菜おこわとエビピラフだ。
歩いているうちは寒さはほとんど感じないのだが、止まるとすぐに寒さが襲ってくる。
ペットボトルの飲料水もシャリシャリしはじめた。
手早く昼食を終えたつもりだったが、このほんの20〜30分ぐらいの間に立てたストックにかけておいたタオルとグローブがパキパキに凍ってしまっていた。
おかげでしばらくの間、手が冷たいのにはほとほと参った。
体が温まってくるに従って手袋の中にも熱がたまり、暖かくなったが、休憩中グローブを外すときは懐にでも入れておくべきだろう。一つ勉強になった。
昼食を終え、登り出すと、1分も登らないうちに山頂に到着。やはり山頂は風が強く、とにかく寒い。
これから向かう尾根道だが、いきなり山頂から狭い尾根の急斜面の下りである。とてもシリセードで降りられる場所ではなく、ステップを切りながら慎重に下る。
ここから、尾根道を外れる1312mピークまでの間は、とにかく悪戦苦闘の連続であった。
下手をすると足の付け根まで潜ってしまう尾根の吹き溜まりを、ラッセルしながら少しずつ前進する。
一度はラッセル中に私の胸ぐらいまでの段差ができてしまい、途方に暮れかけたが、次女の提案でわずかに迂回し、木の枝を踏んでいくことでどうにか通過、私よりも体重の軽い次女だから通れた可能性もあると思ったが、次女が一度踏んだ足跡をトレースすることで、私もそれほど沈まずにどうやら通過することができた。
とにかくこんなペースでは下手をすると暗くなってしまわないかと心配になり始めた。
尾根から外れることを恐れて痩せ尾根の尖った雪の稜線をたどっていたが、雪が深すぎてとうとう進めなくなり、少し下りて尾根の下を歩くことにする。
すると尾根から10mほど下ったところで踏み跡を発見。木立を縫うように続いているが、こちらのほうがよほど歩きやすい。
踏み跡があるという安心感と歩きやすさでホッとしながらその踏み跡をトレースしていくと、ほどなく1312mピークに到着。といってもゆるいピークなので、雪に隠れてまったくわからない。私もGPSでの確認である。
踏み跡はそのまま八方台方面へと続いているが、我々はとりあえず、歩きやすそうなところを選んでブナ林の斜面を下り始めた。
ここからは尾根も踏み跡もない、ブナ林の中。GPSと地形を頼りにひたすら前進する。
崖に近い急斜面をトラバースしつつ下っていく。
転ぶと起き上がるのがなお大変である。下手をすると5分も悪戦苦闘することになる。
ようやくスキー場の駐車場に到着。
やれ嬉しやと思ったとき、いきなり私の体が雪の中に沈んだ。
水路の上に積もっていた雪を踏み抜いたのだ。
実は水路がありそうなことは気がついていたのだが、踏み跡がついていたので安全と思ったのが甘かったのだ。
何とか体は抜け出したものの、踏み抜いた穴の上に横たわり、両側は柔らかい雪の壁である。手をついてもスボズボと潜っていき、力を入れれば崩れる。しかも、いつ体の下の雪が崩れて体ごと水路に落ちるかわからない。
まったく身動きが取れなくなってしまった。
困り果てた私に次女がストックを差し出した。
正直、中2の次女の力で私を引き上げられるものかと思ったが、ものは試しと、反対側の壁に足場を固め、少しずつストックを握る手に体重をかける。
これが思いのほかしっかりとした手応えだったので、なんとか上体をずりあげることに成功。あとは自力で脱出することができた。
期せずして、娘の成長を実感できた父親であった。
今回は直前の大雪による新雪という条件のため、ラッセルに手間取り、意外な時間がかかってしまったが、ある程度しまった雪であれば半分以下のタイムで歩けるコースだと思う。
冒頭にも書いた通り、すぐそばにスキー場があるというのは初心者にとってやはり大きな安心材料であった。
それにしても今回活躍したのはGPSである。
ベテランの方は地形図とコンパスがあればGPSなど必要ないとする向きも多いだろうが、初心者にとってはやはり心強い道具だ。
もしホワイトアウトでもしたら地形を見ることもできず、現在地も見失って動けなくなるだろう。
しかし、GPSは機械であり、バッテリー切れなど、いつ何時使えなくなるとも限らない。
GPSに頼り切ることなく、地図とコンパスで歩けるよう訓練することも大切だろう。
今回私が使用したGPSはiPhoneのアプリケーションでGPS Kitというものである。
詳細な地形図の上をリアルタイムに現在地を表示してくれて、さらに歩いた軌跡のログまで表示してくれる優れものだ。
iPhoneには便利なアプリケーションが山ほどあって気に入っているのだが、キャリアがソフトバンクのため、山に入ると電話がほとんど使えないのが痛い。
北アルプスではDocomoユーザーが電話をかけまくっているのを横目に我がiPhoneはずっと圏外のままであった。