山径独歩(やまみちひとりあるき)
2015年12月29〜30日


「国土地理院発行の2万5千分の1地形図
(乗鞍岳)」

ルートタイム

1日目

1  Mt.乗鞍スノーリゾート駐車場       09:45
2  三本滝レストハウス   11:05  〜  11:20
3  位ヶ原山荘   15:25     

2日目

3  位ヶ原山荘        06:50
4  肩の小屋   10:10  〜  10:25
5  蚕玉岳   11:10     
6  剣ヶ峰   11:25  〜  11:55
7  小屋下分岐点   13:25     
8  Mt.乗鞍スノーリゾート駐車場   15:10     
 穂高連峰の南側に位置する乗鞍岳は、バックカントリースキーのメッカだが、年始年末にはベースとなる位ヶ原山荘も営業するため、登山にも都合が良い。
 夏場は山頂直下の肩の小屋までバスで登れてしまうため、ほとんどハイキング感覚で山頂を踏めてしまう山なので、夏場は敬遠していたのだが、冬なら下のスキー場からの入山になり、それなりに楽しめる。
 そんなわけで今シーズン最初の雪山は乗鞍岳に決定。
 なかなか天候が安定しなかったが、12/29からどうやら晴れそうだとの予報があり、前日に位ヶ原山荘に予約を入れる。

1日目

 当日は朝4時に家を出発。うっかりタイヤチェーンを積むのを忘れてしまい、途中、高速でチェーン規制の情報があったので、最悪下に降ろされるかとびくびくしていたが、どうやら規制にもかからず、積雪や凍結にも当たらずに無事松本インターへ。
 一般道へ下りてから多少渋滞にはまり、9時過ぎにMt.乗鞍スノーリゾートの駐車場に到着。

 雲は多いが、天気はまず上々。だいぶ気温が高いのでインナーは着ずに、ザックにしまう。
 とりあえず、ゲレンデの端を登り始めるが、意外と足が潜るので用意してきたカンジキを履く。以前はスーパーカンジキを愛用していたのだが、靴を買い替えたらスーパーカンジキでは入らなくなってしまったので、ほぼ同じ形でサイズの大きいシンコウ・カンジキに買い替え、今回が初使用だ。
乗鞍岳
乗鞍岳
 スキー場のリフトを利用するつもりだったのだが、風が強いため、リフトが動いていないとのことで、無人のゲレンデを登る。
 こちらは圧雪しており、途中でカンジキからアイゼンに履き替える。
 さっきまで暑いくらいだったのが、だんだん雲が厚くなり、強い風とともに地吹雪が起きてなかなか寒くなってきた。
 後ろを振り返ると、後続の登山者が見え、なんとなくホッとする。
乗鞍岳
乗鞍岳
 1時間20分ほどで三本滝レストハウスに到着。レストハウスは閉まっていたが、その前で小休止。
 行動食を食べながらふと見ると、リフトが動き始めていた。
 ここからはかなり傾斜のある上級者用ゲレンデの登りだ。
 圧雪されていないため、アイゼンで登っているとかなり潜って歩きづらいので、途中でまたカンジキに履き替える。
 リフトはあるのだが、ここはまだ動いておらず、スキーヤーやボーダーたちも板を担いで登っていた。
乗鞍岳
乗鞍岳
 急登を登り切ると、ゲレンデの最上部だ。
 ここからはバックカントリースキーのコースになっている所を登る。
 登っていると急に青空が広がったが、それも一瞬。数分後には再び厚い雲に覆われてしまった。
乗鞍岳
乗鞍岳
 景色の変わらないだらだら登りに飽きてきた頃、分岐の看板が現れる。
 この分岐を右に折れ、しばらく斜面をトラバースして行くと、途中から急にトレースが斜面を急登している。ここを登ればバス道なのだろう。
乗鞍岳
乗鞍岳
 思った通り、少し登るとバス道に出た。
 トレースはあるが、あまりしっかりはしておらず、かなり歩きづらい。さらに木立から出たため風がかなり強く、汗をかいた体にはだいぶ寒い。
 少し行くと、遠くに今日の目的地の位ヶ原山荘が見えてきたが、恐ろしく遠く感じられた。
 思っていたよりも時間がかかり、15:30分頃に位ヶ原山荘に到着。少し薄暗くなりかけていた。
 案内の矢印に従って裏手へまわり、冬期宿泊者用の入口へ。
 入口前でカンジキを外していると、小屋の管理人さんが出迎えてくれた。

 中に入るとエントランスが乾燥室になっており、ストーブが有り難い。
 部屋に案内されて荷物を置き、布団の上に横になるとすぐに眠気が襲ってくるが、部屋はかなり寒い。布団に入ってしまうとそのまま眠ってしまいそうなので、とりあえず談話室に行くと、ここはストーブが効いていて暖かい。少し暗いが備え付けの本などを読んで時間を過ごす。
 適当な時間に食堂に行き、食事の支度を始める。
 実はここの食事はおいしいと評判なのだが、いつも通り私は自炊である。夏場はフリーズドライの野菜等を使うが、今回は生野菜と肉、それに餅を持ってきており、少し豪華な雑煮を満喫する。

2日目

 4時に起きようと思っていたのだが、あまり静かなのでついつい起きそびれて布団の中でウトウト。
 そのうちに階下の食堂で管理人さんが朝食の支度を始めた気配がし始めたので、同室の方々を起こさないようにそっと部屋を出る。
 食堂に行き、とりあえずコーヒーを淹れて目を覚ます。コーヒーを飲みながら管理人さんに山頂までの様子を尋ねると、山頂まではだいたい5時間ほどだが、おそらくトレースはないだろうとのこと。
 今日は山頂まで行って、そのまま下山する予定だったのだが、状況によっては時間的に厳しいかもしれないと思い、場合によっては山頂からここまで戻ってくるのでもう一晩泊めて下さい。と管理人さんにお願いする。
 朝食にラーメンを食べ、トイレを借りて小屋を出たのが6時50分頃。もうライトなしでも充分歩ける明るさだ。
乗鞍岳
乗鞍岳
 明け方の月を頂いた山並みを眺め、いざ出発だ。
 昨日来たバス道を少し戻り、途中から山に入って行くのがルートだ。
 写真のスキーヤーが立っているあたりがその入口である。彼は夕べ同室だった人で、目的地は一緒だが、スキーなのでルートは違う。
 分岐点で待っていてくれた彼と挨拶して別れ、山道に踏み込む。
乗鞍岳
乗鞍岳
 この時期なら例年は木は完全に雪に埋まり、真っすぐに谷を登って行けば良いそうなのだが、今年はやはり雪が少なく、木々の間を縫って歩かなければならない。トレースも消えており、方向がつかみづらい中を少しずつ歩を進めて行く。
 いつしか日が昇り、山を鮮やかに染め上げる。
乗鞍岳
乗鞍岳
 ふと振り返ると、位ヶ原山荘が見えた。
 だんだん傾斜が急になり、ラッセルに手間取っていると、後ろから若い2人のパーティが追いついてきた。
 私はカンジキを履いていたのだが、彼らはなんとつぼ足である。慣れているらしく、私のトレースを辿ってきたとはいえ、かなりの快速である。
 彼らが申し出てくれたので、トップを譲り、今度は彼らのトレースを使わせてもらうことにする。
乗鞍岳
 彼らにトップを交代してもらってから少し登ると、すぐに急登が終わり、見晴らしの良い雪原に出た。このあたりが森林限界なのだろう。
 彼らのトレースを踏ませてもらうのに、カンジキがかえって邪魔になってきたので、カンジキからアイゼンに履き替える。
 アイゼンを履き歩き出そうとしていると、若いご夫婦と思われるパーティーが追いついてきた。
乗鞍岳
乗鞍岳
 この5人が自然にパーティのようになり、適当に距離を置きつつも一緒に歩いて行くことになる。
 後ろを見ると穂高がきれいに見えていた。
乗鞍岳
 一つ峠を越えると目的地の乗鞍岳が目の前に迫ってくる。
乗鞍岳
乗鞍岳
 登るにつれて風が強くなってくる。それでも天気はすこぶる良く、気分は最高だ。
乗鞍岳
乗鞍岳
 半分雪に埋まった乗鞍エコーラインを横切る。
 気がつくと、だいぶ乗鞍岳が近づいてきていた。目の前のカールを横切るようだが、少々雪崩が心配な地形だ。
乗鞍岳
 肩の小屋に到着。もちろんこの時期は営業はしておらず、半分雪に埋まっている。
 ここまで来るとかなり風が強くなり、風に向かうと呼吸が難しいほどだ。
 小屋の影で風をやりすごしながら休憩し、身支度を整える。
 一緒に登ってきたご夫婦のパーティが近くで休憩していたので話しかけてみると、この強風では不安なのでここから引き返すという。
 正直、私もかなり不安を感じていたが、せっかくなので様子を見ながら行けるところまで行ってみようと、二人に別れを告げ、歩き始める。
 と、ほぼ同時にやはりどこかで風をやり過ごしていたらしいさっきの若い2人が私の前を歩き始めていた。それに力を得て、彼らの後に続き、急な斜面を登り始める。
乗鞍岳
乗鞍岳
 写真ではそれほどでもないが、実際はなかなかの傾斜である。しかも上に行くほど傾斜がきつくなる。さらに雪面は完全にクラストしており、遮るもののない広い斜面は風がハンパではない。
 時折、耐風姿勢をとりつつ、一歩一歩確実にアイゼンを食い込ませて登る。
 あまりにも風が強いので、朝日岳の山頂は避け、山頂の下をトラバースして行く。回り込んで行くと、乗鞍岳の主峰、剣ヶ峰がその姿を現す。
 奥の鳥居が見えるのが剣ヶ峰、手前の人が立っているのが蚕玉岳だ。
乗鞍岳
乗鞍岳
 蚕玉岳の登りに入る。横風を受け、いつの間にか右へと流されるのを時折修正しながら登る。
 蚕玉岳山頂に到着。ここまで来れば剣ヶ峰も目の前だ。
 ふと見ると剣ヶ峰から下山してくる単独の登山者がいる。
 すれ違いざまに挨拶をしようと顔を見て驚いた。なんと小屋で同室で、朝分岐で別れたスキーヤーの彼である。肩の小屋にスキーをデポして登ってきたとのこと。
 お互いに無事を喜び合って、再び右と左へ。山での出会いは嬉しいものだ。
乗鞍岳
乗鞍岳
 最後の急登を登り切り、剣ヶ峰の山頂へ。
 山頂からの展望は最高だ。不思議なことに鳥居をくぐった瞬間に風がピタリと止まり、凍てつく寒さだったのが嘘のように暖かい。
 山頂には先行していた二人の若いパーティが休憩しており、山頂踏破を喜び合う。
乗鞍岳
乗鞍岳
 見下ろすと、さっき通ってきた肩の小屋、その上には現在は閉鎖されているコロナ観測所が見える。遠くに見えるのは北アルプスだ。
 反対側には木曽の御岳山。山頂に見えるのは噴煙だろうか。
乗鞍岳
乗鞍岳
 こちらは登ってきた稜線。
 雲が切れ、槍ヶ岳もその姿を現した。
乗鞍岳
 若い二人と景色を眺めながら山談義が始まる。風がなく暖かいので、ついついのんびりしてしまう。ついでにお互いに北アルプスをバックに記念撮影。
 あまりにも居心地が良いのだが、いつまでもそうしてはいられないので、下山にかかることにする。
 当初は登ってきた道を下るつもりだったのだが、二人がショートカットして一直線に下るという。山頂から眺めると特に危険な箇所はなさそうなので、私も二人についていくことにする。
乗鞍岳
乗鞍岳
 かなりの急斜面を一気に下る。あっという間にコロナ観測所跡が眼の高さに来た。
 斜面を下り切り、広い雪原を歩く。もう少し苦労するかと思ったが、意外にスムーズに歩くことができ、振り返るともうあんなに剣ヶ峰が遠い。
乗鞍岳
乗鞍岳
 ほどなく樹林帯に入り、位ヶ原山荘の分岐に到着。ここからは登りにも通った道だ。
 吹雪かれて苦労した登りの道も、快晴の下りは打って変わって気持ちよく、夢見心地に下って行くうちにいつしかスキー場に入り、15時過ぎに駐車場に到着。
 当初のルートでは17時を過ぎるかと覚悟していたのだが、二人のおかげでショートカットルートを知り、期せずして楽に下ることができたことは幸いであった。
 今回は剣ヶ峰だけで下山してしまったが、乗鞍岳は他にもピークが沢山あるので、いずれまた訪れたいものである。
山径独歩(やまみちひとりあるき)