2014年5月2日〜4日
「国土地理院発行の2万5千分の1地形図
(三平峠、燧ヶ岳、尾瀬ケ原、至仏山)」
3D MAP
ルートタイム
尾瀬は前から行きたかった場所の一つなのだが、混雑の嫌いな私は夏場の尾瀬はどうも行く気がせず、まだ雪も多く、ちょうど小屋開けのゴールデンウィークあたりが最適と考え、今回、行ってみることにした。
狙いは燧ヶ岳だが、小屋も利用できることだし、せっかくなら至仏山も登ってしまおうと欲張り、大清水から入山し、尾瀬沼から燧ヶ岳、さらに尾瀬ケ原を縦断して至仏山へ登り、鳩街峠に下山する、2泊3日の予定で計画を立てた。
このルートだと入山口と下山口が別の場所になるため、車を戸倉に駐め、戸倉からバスで大清水へ。そして下山は鳩街峠から乗合タクシーで戸倉へと戻るのが一番良さそうである。
その予定で2泊分の小屋に予約を入れ、準備万端整えた。
1日目
5月2日、関越自動車道を沼田I.C.で降り、8時過ぎに戸倉に到着。戸倉第一駐車場に車を駐める。
駐車場には鳩街峠への乗合バス乗り場があるが、大清水行きの表示が見当たらない。タクシーのドライバーらしき人に尋ねると、大清水へは川向こうに見えるバス停からバスが出ていると教えてくれた。
荷物を担いでバス停に行くと、丁度大清水行きのバスが来たので慌てて乗り込む。どうやら大清水から入る人は少ないようで、乗客は私を含め5人ほどだ。
バスに乗って20分ほどで大清水に到着。
バスを降りて身支度を整える。とりあえず雪はなさそうだ。それほど寒くないので、アウタージャケットのみを羽織って歩き始める。
車止めのゲートの脇を抜けて歩いて行くとほどなく、登山口の標識が現れる。ここで道は二股に分かれるが、登山道は左側の道を行く。
道はほんの僅かに登っているが、ほとんど平地と変わらない。森林浴を楽しみながらのんびりと歩く。
奥に入って行くにつれ、だんだんと雪が多くなる。
大清水から1時間ちょっとで、一ノ瀬休憩所に到着。どうやらここから先は雪道になるようだ。
ここまではつぼ足で歩いてきたが、渓流沿いの道になり、足を滑らすと渓流に落ちるような所が出てきたため、適当な所でアイゼンを装着。
見るからに危なげなスノーブリッジ。恐る恐る渡ってみると、下には木製の橋がちゃんとかかっていた。
スノーブリッジを渡ると急斜面になり、それを登りきると小さな尾根に出る。
三平峠に到着。埋まった看板から積雪量が分かる。
この先を下れば尾瀬沼だ。
尾根に登ってからは気持ちの良い雪原歩きに変わる。樹種もブナが中心だったこれまでと変わり、シラビソが中心になる。
三平峠を過ぎ、下りにかかると木々の間から尾瀬沼がちらちらと顔を出し始める。
下って行くと目の前いっぱいに白い尾瀬沼が広がる。なかなかの圧巻である。
ちょうど時刻も昼過ぎだったので、尾瀬沼を眺めながら昼食にする。
日差しが強く暑いので木陰の雪をならして場所を作り、腰を下ろす。
小屋まではもう30分ぐらいなので、時間はたっぷりある。バーナーを出して湯を沸かし、ラーメンとコーヒーでまったり。
峠を下りきり、まだ営業を開始していない尾瀬沼山荘の脇を抜けると尾瀬沼に出る。木立のすぐ先が沼だと思うのだが、どこが境目かまったくわからない。
たっぷり1時間近くものんびりしてから腰を上げる。
急ぐ必要はないので、沼に沿って景色を眺めながらぶらぶらと歩き始める。
尾瀬沼の向こうに見えるのは、明日目指す予定の燧ヶ岳だ。
長蔵小屋のすぐ近くまで来たあたりで、水芭蕉を目にすることができた。
今日の目的地、長蔵小屋。非常に雰囲気のある小屋である。
長蔵小屋の廊下と室内。外観に負けず劣らず、時代劇に出てきそうな雰囲気だが、掃除の行き届いたとても気持ちの良い小屋だ。
今日はまだ空いているので、1部屋を一人で占領させてもらい、散歩をしたり部屋でうたた寝をしたりと、午後をのんびりと過ごす。
夕食だが、自炊がOKとのことだったので、いつもの簡単雑煮で夕食にする。
さすがに部屋で煮炊きはできず、流し場に煮炊き用の台があり、そこで行うようになっている。流し場で料理をして、近くの談話室で食べることにした。
夕食後、窓から西の空が燃えているのに気付き、慌ててカメラを持って外に出る。
沼の方に降りて見通しの良い場所に出ると、まさにもうすぐ日没という絶妙のタイミング。
日が沈みきり、部屋に戻る前に一服して行こうとビジターセンター前のベンチに移動。夕焼けに映える美しい木立を眺めながら、暗くなるまで雪山の夕暮れを楽しんだ。
2日目
朝4時。目が覚めるとだいぶ空は白んできている。
簡単に行動食で朝食を摂り、身支度をして外へ。外は思ったよりも寒くなく、上着なしでも歩き出せば寒くなさそうである。
皮肉なことに、スパッツやアイゼンまで装着し、すべての支度が整って歩き出そうという頃になってトイレに行きたくなった。
仕方がないので一度装備を外し、小屋に戻ってトイレを借りる。そんなことをしているうちに時間が過ぎ、5時過ぎになってやっとスタート。
朝日に映える燧ヶ岳。これから目指す頂だ。
気持ちの良い大雪原に足を踏み出す。朝の雪は程よく締まり、アイゼンの刃を心地よく受け止めてくれる。
しばらく歩いて行くと、雪から顔をのぞかせた橋が現れる。
ルートはこの橋を渡り、その先の土手を上って樹林帯に入って行く。
一旦、樹林帯から出てまた雪原を歩くが、長英新道の分岐からまた樹林帯へ。あやうく、分岐点の標識を見落とす所だった。
朝の木漏れ日が降るシラビソの森を進む。まだ傾斜も緩く、のんびり歩いているつもりだったが、思いのほか距離がはかどる。
だんだん傾斜もきつくなってくると、時折、木々の間から燧ヶ岳の山頂がその姿を見せるようになる。
そろそろ森林限界を越えるあたりか。見晴らしが良くなり、ふと左側を見ると、眼下に尾瀬沼が一望に広がっている。その先に見える一際突き出した岩峰は日光白根山だ。
だいぶ燧ヶ岳の核心に近づいてきた。
ルートは左側のピークに上がって行く。そのピークがミノブチ岳だ。
ミノブチ岳から俎嵓を望む。もう一息だが、ここから先もかなり傾斜はきつそうだ。
だいぶ山頂に近づいたところで、先行者が見えた。今日初めて見た人である。
ルートは一旦、雪のない岩場登りになる。なかなか険しい岩場だが、それほど距離はなさそうなので、アイゼンを履いたまま登るが、これがなかなか苦労した。
数分ほどで岩場を抜けると、再び雪面になるが、ここまでくると山頂はもう目の前だ。
俎嵓に到着。祠の向こうに見えるのが柴安嵓だ。
俎嵓から見下ろす尾瀬沼。手前はミノブチ岳。
北方向の眺めは雪山が連なる素晴らしい景色だ。
次に向かう柴安嵓は一旦下ってから登り返す。
柴安嵓の向こうには尾瀬ケ原から至仏山が望める。
俎嵓から柴安嵓へのコルに下る。途中まではアイゼンを履いたまま雪のない登山道を下っていたのだが、思ったより距離が長いので、途中でアイゼンを外す。
コルに降り、柴安嵓の登りを見上げる。
話には聞いていたが、ほぼ崖登りに近い斜面である。よく見ると滑落したような痕もあり、アイゼンの紐をしっかりと閉めて登り始める。
登りながら撮影。この高度感が伝わるだろうか。
恐怖心を抑えつつよじ登り、ようやっと柴安嵓の山頂へ。ここが燧ヶ岳最高峰だ。
雪の尾瀬ケ原。クネクネと流れる川が面白い。
しばらく山頂を楽しんだ後、尾瀬ヶ原に向かって下山を始めるが、この下山路が険しいのなんの。
崖上ぎりぎりを進み、ところどころ雪の崩れた所を回避。場合によっては雪の崖側に少し降りてトラバースする形で進む。雪が崩れれば100m以上滑落は間違いないだろう。
また、明らかに岩場と思われる垂直に近い10mほどの下りがあった。おそらく鎖場だろうと思われるが、もちろん鎖は雪の下だ。雪が崩れないかとヒヤヒヤしながらアイゼンとピッケルに頼って下る。最も急な部分を下り終え、ホッとした瞬間に足下の雪が崩れた。滑落しながら必死でピッケルを雪に突き立てる。
数mほどの滑落で停止することができたが、もし止まらなければ、その先はまた100m以上の崖だ。さすがにゾッとした。
滑落した斜面。奥に見えるのは下ってきた燧ヶ岳。
さらに出てくるのは急斜面のトラバース。
次々に現れる難所にだいぶ疲れを感じ始めた頃、一直線の谷の下りに入る。これがまた急な下りで、疲労の溜まった足を痛めつけてくる。
日差しは痛いほど強く、暑い。時折谷を吹き上げてくる風がこの上ない快感である。
いつしか傾斜も緩くなり、尾瀬ケ原の手前の森に出る。見通しの利かない森の中で、木に記された目印が頼りだ。
右へ左へ木立の中を抜けて行くと、木立が切れると同時に見晴の小屋群が出現する。
今日の目的地である。
まだ昼過ぎで時刻も早いのだが、とりあえず予約を入れていた桧枝岐小屋にチェックイン。割り当てられた部屋に入って簡単に昼食を摂った後、小屋の近くを散策して時間を過ごす。
この日は夕食は小屋に頼んでいたが、食事は非常においしい。また小屋開けということで缶ビールのサービスもあり、大満足の夕食となった。
3日目
4時に目を覚まし、同室の人たちを起こさないよう静かに部屋を出る。
ラウンジで夕べのうちに小屋に用意してもらった朝食を食べる。朝食はかなりのボリュームがあり、起き抜けの胃袋には少々きつかったので、持って行けそうなものはザックに入れて小屋を出発。
うっすらと明るくなりかけた尾瀬ケ原の大雪原へと足を踏み出した。
正面の至仏山がモルゲンロートし始めた。雪原には早起きのカメラマンが何人か日の出を待っている。
西に向かって歩いているので、日の出を撮影しようと、時折後ろを振り返りながら歩く。しばらくすると、燧ヶ岳から日が昇り始めた。ただ、山の上からの日の出なので、きれいな朝焼けの日の出ではなくなっているのが残念だ。
ほとんど雪に隠れていた木道だが、部分的に雪が解け、現れていた。
朝日に映える木々の美しさが眼にしみる。
澄んだ水面に映る逆さ至仏山。
見晴の桧枝岐小屋から尾瀬ケ原を縦断し、2時間ちょっとで山の鼻に到着。ここで一服したらここから至仏山の登りが始まる。
予想はしていたが、登り始めから急登が続く。
しばらく樹林帯を登って行くと、いつしか目の前が開け、大雪原が現れた。広すぎるのでなだらかに見えるが、登ってみるとなかなかの急登だ。
ふと振り返ると、尾瀬ケ原から燧ヶ岳が一望に見渡せた。昨日は逆に向こうからこちらを眺めていたことを思い出す。
延々と続く急登。振り返ると吸い込まれそうな気がする。
雪が切れ、山頂に到着かと思ったが、山頂はまだ先。ここからしばらく木の階段が続く。
木の階段を15分ほど登るとまた先に雪が見えた。おそらくその先が山頂だろう。
山頂までもう一息。
山頂は人でごったがえしていた。
至仏山頂からの展望。
混雑する山頂付近で、やっと場所を見つけ、雪の上に腰を下ろしてしばらく休んだ後、次の目的地、小至仏山に向かって出発。
夏径は山頂を通過するルートだが、山腹をトラバースするトレースがついている。
相当な急登をよじ登り、小至仏山頂へ。山頂へはいくつかトレースがあったが、ほとんどの人は山頂には登らないようだ。
茂みの向こうの岩場が山頂のようだが、無理に行こうとするとハイマツを傷つけそうだ。強引に山頂に抜けている痕もあったが、私は自粛することにした。
小至仏山頂より来た道を振り返る。至仏山から尾瀬ケ原、燧ヶ岳までが一望に見渡せる。
小至仏山を下り、トレースに戻る。
またしばらく歩き、振り返ってみた小至仏山。
歩いていてふと見ると、右側に急登が現れた。もしやと思って調べるとどうやら悪沢岳のようだ。すぐそこが山頂のようなので、どうせならと、登り始める。
数分で山頂に到着。
山頂からは笠ヶ岳の見事な勇姿が眺められる。
あとは鳩街峠まで下るだけだ。
時間はたっぶりあり、もうすぐ終わってしまう今回の山歩きを惜しみつつ、景色を眺めながらのんびりと下る。
いつしか車の音が聞こえ始め、鳩街峠のロッジが木々の合間に見えた。アイゼンが汚れると面倒なので、まだ雪がきれいなあたりでアイゼンを外す。
鳩街峠からは乗合タクシーで戸倉の駐車場に戻り、今回の山行の終了である。
さすがに天下の尾瀬だけあって、どこをとっても絵になり、今回は写真の量が思い切り増えてしまった。このサイトに掲載するのにもだいぶ厳選したつもりだが、撮影者が選んでいるのでどうしても選考が甘くなり、ページが重くなってしまったことをお詫びしたい。