2017年8月9日〜11日

「国土地理院発行の2万5千分の1地形図
(仙丈ヶ岳、鳳凰山、間ノ岳、夜叉神峠、奈良田)」
ルートタイム
白峰三山は日本第二位の北岳と、奥穂高岳と並んで第三位の間ノ岳を擁する日本を代表する尾根の一つだ。
今回は、広河原から登って奈良田に降りる最も一般的とされるルートを辿ることにした。
8月8日。奈良田の駐車場は早朝から混雑すると聞いていたので、駐車場で車中泊をするつもりで、仕事を早めに切り上げ、出発。
奈良田には午後9時頃に到着したが、この時点では一番手前の奈良田バス停の駐車場にも数台の車しか駐まっていない。
安心して車を駐め、車中泊の支度をしていると、ポツリポツリだが車が来て駐めていく。
朝目が覚めるともう駐車場はぎっしりと埋まっていた。
奈良田バス停から5時30頃の始発バスに乗り、広河原へと向かう。小一時間ほどバスに揺られ、広河原に到着すると、もうそこは登山者でいっぱいである。
インフォメーションセンターに入り、2階へ登る。2階は結構広い休憩所とショップがあるので、そこで腹ごしらえをする。
朝食を食べながらショップを眺めていると、熊鈴が売っていた。そういえば今回は熊鈴を忘れて来たことに気付きき、渡りに船とそこで購入。
売店のカウンターに登山届ポストがあったので、用意して来た登山届を出す。
これで準備は整った。この建物の2階の裏側に登山口への出口があり、そこを出ていざ出発。
1日目
少しバス道を歩くと案内表示があり、吊り橋を渡って登山道に入る。
天気はすこぶる上々。暑くなりそうな気配だ。
それにしてもいきなり急登が続く。今回はテント装備20kgなので、焦らずにゆっくりと登ることを心がける。
ゆっくりゆっくり、3時間半ほど登ると白根御池小屋に到着だ。
小屋の前には湧き水。ついでにソフトクリームを買って30分ほど大休止。
さっき知り合った若い夫婦の登山者は、当初この御池小屋に泊まると言っていたのだが、まだ時間も早いということで、肩の小屋まで行くことにしたそうだ。
このご夫婦とはこの先、後になり先になり、ほぼ一緒に歩いて行くことになる。
たっぷりと水分と休憩を取り、再び歩き始める。
ここからは草すべりと呼ばれる急登が始まる。草すべりというから、草を踏んで歩くのかと思ったらそうではなく、一応道には石が敷いてあり、滑りやすいということはない。
それにしても延々と続く急登に息を切らし、休み休み登っているとさっきのご夫婦(仮にA夫婦としよう)と何度も抜きつ抜かれつ。その度に声を掛け合うのですっかり仲良くなってしまった。
長い急登を登り、息を切らしながらようやっと森林限界を超える。
稜線までもうすぐだ。
ほどなく稜線に到着。ここで休憩。
同じく休憩する人たちとしばし談笑し、元気の良い年配の登山者(以降Bさんとする)と仲良くなる。
眺めは良いが、少々雲が出て来たのが気になる。明日の天気は大丈夫だろうか。
そういえばさっき、「北岳には何度か来ているが、すっきり晴れたことがない」と言っている人がいたっけ。
ここからは気持ちの良い稜線歩きだ。
だんだん雲が厚くなって来ているのが気になる。
出て来ました楽しい岩場。
ほどなく肩の小屋に到着。この時点で時刻は15時前。
当初は北岳山荘まで行く予定だったが、時間的に厳しく、今日はここに泊まることにする。
明日の行程が長くなってしまうが仕方がない。
テン場は結構風があり、風を避けられる場所を探して場所を確保。
後から来たA夫婦も隣に幕営する。
奇遇にも同じアライテント。
風が強いので雲の流れが早く、天気が目まぐるしく変わる。
時折、北岳が綺麗にその姿を現す。
A夫婦は夕食は小屋に食べに行き、自分は自炊に取り掛かる。
メニューは定番の雑煮だ。今回はカップ豚汁の中身を二食分コッヘルに入れ、それで餅を煮込む。初めて試してみたが、具だくさんのなかなか豪華な夕食になった。
2日目
4時に目が覚め、テントの中でコーヒーとラーメンで朝食。
荷物を整理してテントのファスナーを開けると、いきなり素晴らしい雲海が目の前に広がった。
小屋にトイレと水汲みに出かけたかったが、テン場から小屋までは少々距離がある。東の空はだんだんと焼けて来ているし、途中で御来光を拝むことになりそうだったので、カメラを持って小屋へ向かう。
思った通り、用事を済ませて戻って来る途中で御来光を拝むことになった。
御来光の少し前から雲が流れて来て、すっきりときれいな御来光にはならなかったが、代わりに幻想的な景色を拝むことができた。
御来光の撮影に夢中になっているあいだにA夫婦は先に出発してしまった。
今日の行程は長いので、こちらものんびりはしていられない。急いで荷造りをして北岳の登りに取り付く。
北岳直下の登りはなかなか急峻な岩場だ。
この登りの途中、定年後に登山を始めたばかりというCさんと出会い、なんとなく一緒に登ることになる。
周囲は濃いガスに包まれ、視界は10mほどか。せっかくの山頂も展望は望めないな、と早くも諦めモード。
肩の小屋から45分ほど。6時30分に、富士山に次ぐ日本第2位の北岳山頂に到着。
しかし思った通り、山頂は雲にすっぽりと覆われ、展望はゼロ。
ところが、諦めてしばし休憩していると、あれよあれよという間に雲が流れ、ほんの5分間ほどだが、素晴らしい展望が姿を現したのである。
景色に見とれていると、先に出発したはずのA夫婦が山頂に到着。不思議に思って尋ねると、どうやら途中で道を間違え、中白根沢の頭の方に行ってしまったとのこと。
とりあえず、山頂に無事到着。この景色が見られたことを喜び合う。
さて景色を堪能し、先を急ぐことにする。
申し合わせたわけではないが、ここまで一緒に登って来たCさんとタイミングが合い、引き続き同行することに。
山頂から15分ほどで北岳小屋に到着。
水を補給しつつ、またしばし休憩。
北岳小屋から40分ほどで中白根山に到着。
ここまで来る途中、Cさんは疲れたから先に行ってくれと言い、一旦別れたが、ここで休憩していると意外に早く追いついて来た。見るとザックを担いでいない。
聞けば、間ノ岳まで行って戻って来るので、ザックをデポってきたとのこと。
ここからまた歩き始めるが、身軽になったCさんとは間ノ岳まで同行することとなる。
相変わらずガスが濃いが、時折、一瞬だけすっきりと晴れ、景色が現れるのが楽しみだ。
日本第3位の間ノ岳山頂に到着。残念ながら展望はなし。
ここで腹ごしらえをしながら休憩していると、A夫婦、Bさん、Cさんが皆追いついて来た。
他の登山者も結構おり、ガスの中ながらも賑やかな山頂となった。
さてCさんはここから今日中に広河原まで戻るので、別れを告げてUターン。
自分も出発しようと荷物をまとめていると、ザックの雨蓋を締め付けるベルトが1本、いきなり千切れてしまった。
締め付けるのに引っ張ったら何の抵抗もなく千切れたので、最初は単に抜けたのだろうと勘違いしたほどだが、確認するとやっぱり切れている。
こんなときのために持っていたパラコードで応急処置をしてみたが、なんとかなりそうで一安心。気を取り直して出発。
まだ先は長い。
歩き始めるとすぐに雷鳥に遭遇。雷鳥は鷹などの天敵を避けるため、天気の悪い時に良く現れるというが、確かにその通りだ。
間ノ岳山頂から少し広いザレ場を歩くと、いつしか道は急な下りとなる。なかなか足にくる下りだ。
下って来た道を振り返る。なかなかの急斜面である。
どうやら雲の下に抜けたようだ。
急な斜面を下り切るとなだらかな歩きやすい径になり、雲を抜けたこともあり、気分良く景色を楽しみながら歩く。
これですっきりと晴れていたら最高なのだが。
コルにある農鳥小屋が見えて来た。
間ノ岳から小一時間で農鳥小屋に到着。写真右下の老人は口の悪いことで有名な農鳥小屋のオヤジだ。
このオヤジさんは、いつもこのドラム缶に座って、歩いてくる登山者を眺めており、歩き方が悪いと容赦無く怒鳴りつけるそうだ。
休憩していると、後からBさんが追いついて来たのだが、Bさんがオヤジに絡まれた。
Bさんも自分と同じで大門沢小屋まで行くつもりなのだが、「ここに泊まっていけ、これから大門沢じゃ暗くなっちまう」と、物言いが喧嘩腰に聞こえるので、さすがにBさんも少し声を荒げて断っていたが、見ていると、年配の登山者にはそんな風に声をかけているようだ。
まあ登山者を心配してのことなのかもしれないが、もう少し言い方がなんとかならないものか。
さてここからは西農鳥岳の急登が始まる。途中からはまた雲に入るようだ。
振り返ると眼下には農鳥小屋が。すごいロケーションだ。
下から登って来ているのはA夫婦だ。お互いに気が付いてトレッキングポールを上げて挨拶。
登るにつれ、ますます傾斜がきつくなる。
急登が終わり、平らな場所に出た。道標があり、農鳥岳の方向が示してある。とすればここが西農鳥岳山頂だろうか。
しかし山頂という標識はなく、周囲は濃いガスでまったく地形が分からない。GPSを見ると山頂の位置を示しているので、ここが山頂と思い、しばらく休憩。
手頃な石に腰を下ろして行動食を食べていると、A夫婦が追いついて来た。
「多分ここが西農鳥岳だと思うんだけど・・・」などと言ってしまったが、一足先に歩き出すと、すぐに目の前に巨大な岩塊がそびえ立っているのが見え始めた。
「こっちが山頂だ!」とA夫婦に呼びかけ、一足先に山頂へ。
西農鳥岳の山頂。晴れていれば展望が良さそうな場所だが、今日は展望なし。
手前でたっぷり休んでしまったので、ここはスルー。
この辺りはスリリングな岩場だ。
西農鳥岳から少しばかりきつい下りがあったので、農鳥岳へはまた登り返しを覚悟していたが、それほどのこともなく山頂に到着。
近くで休んでいたDさんに話しかけられ、しばらく山談義。農鳥小屋の親父の話などで盛り上がる。
Dさんは二人連れだが、遅れている相方のEさんを待っているそうなので、自分は先に出発。
この時点でだいたい13時30分。
今日の目的地である大門沢小屋まではまだ3時間以上かかるが、ここからはもう下るだけなので気は楽だ。
というのが実は甘い考えであることを、これから嫌という程味わうことになる。
農鳥岳山頂から少し歩いて行くと、意外に早く「下降点」と書かれた看板が出てきた。まだまだ下降点は先のはずだが、ここを降りて良いのか迷ったが、朽ちかけた看板をよく見ると、ここが下降点なのではなく、「下降点へはこちら」と示しているようだ。とりあえず看板に従って左に降りて行く。
思った通り、道は稜線と平行に進み、しばらく歩くと本当の下降点に到着。
下降点では先客のご夫婦(以降F夫婦)が休んでいたが、自分の到着とほぼ同時に出発。大門沢へと下っていった。
降り始めるとすぐに森林限界を超え、背丈ほどの藪につけられた径を下って行く。かなり急な歩きにくい下りだ。
途中でF夫婦に追いつき、先を譲ってもらう。このご夫婦もだいぶスローペースだ。
橋が折れている。張られたロープにつかまりながらかなり傾いた橋(というより梯子)を登る。ロープも緩いため、バランスを崩して落ちそうになる。
こちらは普通にかかっている橋だが、これでも怖い。この径はこんな橋が何箇所も現れる。
かなりつらい下りだと聞いてはいたものの、なに下りならそれほどのことはあるまいと高を括っていた。
最初のうちは調子よく下っていたのだが、とにかく急な下りが長く続く。いくら歩いても先が見えず、背中の20kgの荷物に足が悲鳴を上げ始めた。
一度は崖際の下りで腿の踏ん張りが利かなくなり、危うく谷底に落ちるところを必死で持ちこたえたりもして、そこからは本当にスローペースで、じわじわと下る。
途中、休憩していると、さっき農鳥岳で会ったDさんが追いついてきて、「水場はここですか?」という。地図には載っていないが「水場があるんですか?」と逆に尋ねると、あると聞いているとのこと。
話しているとBさんも追いついてきて、やはり水場のことを知っている様子。
Bさんはもう少し休んで行くというので、水場と聞いて俄然元気が出た自分は、Dさんと出発。
そこから30分ほど歩いただろうか、水場を発見。大喜びでたらふく水を飲み、元気を取り戻す。
Dさんは、連れのEさんがかなり遅れているらしく、ここで待つという。しばらく休憩していたが、Bさんもまだ降りてこない。自分はとりあえず水を飲んで元気が出たので、足は痛いがゆっくりと先に行くことにする。
農鳥岳から3時間30分ほどかかって、疲労困憊で大門沢小屋に到着。
テントの受付で尋ねられて、肩の小屋からと答えると、あと何人ぐらい来るかを尋ねられた。
水場で別れたDさんと連れのFさん、それとBさん、途中で追い越したF夫婦と、西農鳥岳でだいぶグロッキーだったA夫婦・・・。
「おそらく自分の知る限り最低4組は向かって来ているはずです。何人かはだいぶ遅くなるかも知れません」と答えたが、やはり肩の小屋からだと遅くなる人が多いようだ。
かくいう自分もだいぶグロッキーで、テントの設営を終えて一息つこうと横になったらもう動く元気がなくなり、とりあえずの行動食だけを食べてそのまま寝てしまった。
3日目
いつもどおり4時に起床。夜中に雨が降っていたが、幸いなことに止んでいるようだ。
昨夜はろくに食べないで寝てしまったので腹が減り、テントの中でラーメンとコーヒーで朝食を摂る。体じゅうが筋肉痛で痛い。
テントから這い出すと、どうやら天気は良さそうだ。びしょ濡れのテントを撤収し、荷造りをしていざ歩き出す。今日は下りだけだが昨日の下りを考えると気が抜けない。
テン場を歩いているとA夫婦のテントを発見。無事到着したようだが、さすがに疲れてまだ寝ているようだ。
大門沢小屋からしばらくは渓流沿いの道を歩く。何度も橋を渡り渓流の右側を歩いたり左側を歩いたり・・・。
径は渓流だけに岩場が多く、径にしても橋にしても昨夜の雨ですこぶる滑りやすい。非常に神経を使う径である。
いつしか径は渓流を離れ、歩きやすくなって行く。
2時間ほど歩くと、ダムに出た。
まだゴールは先だが、普通に働いている人たちもいて、なんだか妙な感じだ。
ここからはダムの建物や変電施設の横を抜けたり、案内に従って施設の中を通り抜けて行く。
と、いきなり車道に飛び出す。
まだ一般道ではなく、ダム関係者専用の車道だが、ここを1kmも歩けば一般道に出て、そこから駐車場までは2kmほどか。
先が見えて来た。
一般道への出口まで行くと、そこにはDさんがいた。
そこはバス停になっており、あと10分ほどでバスが来るらしい。自分もそれに乗ることにする。
Dさんの相棒のEさんが遅れているようで、バスに間に合うかやきもきしているようだったが、ぎりぎりでEさんも到着。
車を駐めた奈良田の駐車場までバス代150円。とにかく全身が筋肉痛で痛く、バスは予定外だったが、正直助かった。
奈良田では二人と一緒に温泉に入り、食事をしてそれぞれ帰路に着いた。