山径独歩(やまみちひとりあるき)
2014年12月26〜27日


「国土地理院発行の2万5千分の1地形図
(蓼科・松原湖)」

ルートタイム

1日目

1  渋の湯登山口       08:15
2  黒百合ヒュッテ   11:05  〜  11:20
3  東天狗岳山頂   12:55  〜  13:00
4  西天狗岳山頂   13:25  〜  13:40
5  黒百合ヒュッテ   15:40     

2日目

5  黒百合ヒュッテ        07:25
6  中山   07:55     
7  高見石小屋   09:05  〜  09:10
8  丸山   09:40  〜  09:50
9  渋の湯登山口   11:10     
 八ヶ岳の良い所はやはり通年営業の小屋が多いということだろう。
 昨年の同じ時期に訪れた北八ヶ岳は、残念ながら天候に恵まれず、吹雪の中のトレースのない新雪を歩くことになった。それはそれで雪山を堪能できたのだが、やはり展望が望めないのはつまらないので、今年はじっくりと天気を待ち、安定するのを待って出かけることにした。

 昨年は当初の計画が登山口と下山口を違う場所にしていたため、電車とバスを利用してアプローチしたが、今年は登山口も下山口も渋温泉であり、しかもバスが1日に2本とあまり便が良くないため、車でのアプローチとなった。
 渋温泉への1本道は狭い上に圧雪路となっており、スタッドレスは必携だ。この冬にスタッドレスを新調しておいて良かった。
 天気は良いのだが、下から見ると八ヶ岳の山頂付近だけが雲に覆われている。これはもしかしたら上は天気は駄目かも・・・と少々心配になる。

1日目

天狗岳・渋温泉
天狗岳・渋温泉
 渋温泉の駐車場は混むと聞いていたが、連休の1日前なのでまだガラガラである。渋御殿湯で駐車料金を払い、車を止めて身支度を整え、いざ出発。
 渋御殿湯前を通り過ぎ、川沿いの細い道に入って行くとほどなく橋が現れる。橋のたもとに入山届けを出すポストが設置されている。
天狗岳
天狗岳
 橋を渡るといきなり急斜面だ。ここでアイゼンをつける。
 やはりあまり天気は良くないが、樹林帯の雪景色を楽しみながらのんびりと登って行く。しっかりとトレースがついており歩きやすい。
天狗岳
天狗岳
 八方台からのルートの出会いを通過する。ここからは道も緩やかになり、ペースも上がる。
 この辺りまで来ると、いくらか風が強まり、それに伴って上空の雲が動き始めた。これはもしかしたら晴れるかもと、期待を膨らませる。
天狗岳
天狗岳
 歩いているとかわいいスノーマンが見送ってくれた。
 思った通り、雲の切れ間から時折陽が射し始めた。
天狗岳・黒百合ヒュッテ
 3時間ほどで黒百合ヒュッテに到着。
 ヒュッテ前のベンチで休憩。ここでトレッキングポールからピッケルに持ち替える。
 ちょうど、ヒュッテの前の急斜面を下ってきた2人のパーティに声を掛けると、もう天狗岳から降りてきたとのこと。山頂はガスで展望はダメだったと残念そうであった。
天狗岳・黒百合ヒュッテ
天狗岳・中山峠
 2人が降りてきた急斜面のルートはあまりトレースがなく、歩きにくいとのことだったので、とりあえず登りは中山峠経由の尾根ルートを選択。
 中山峠はヒュッテから数分の距離だ。
 中山峠を右に折れ、少し歩くと樹林帯を抜け、天狗岳が見えてきた。しかし樹林帯を抜けると同時に急に風が強く、冷たくなる。露出している頬が痛くなり始めたので、サングラスをゴーグルに換え、ネックウォーマーを引き上げて顔を覆う。
天狗岳
天狗岳
 天狗岳がきれいに見えた。どうやら雲も切れ始めているようだ。
 時折、木立の中や岩場を歩く、足場の悪い所では気をつけないと強風でバランスを崩しそうだ。
天狗岳
天狗岳
 だいぶ東天狗岳に近づく、直下から見るとなかなかの急斜面である。
 ふと見ると、左側の崖下の樹氷が美しい。
天狗岳
天狗岳
 強風に喘ぎながら急登を登り、ふと気がつくとだいぶ青空が広がってきていた。
 下山してきた4人組のパーティとすれ違う。この日、中山峠から天狗岳の間で出会った唯一のパーティーだ。
天狗岳
 だいぶ東天狗岳の核心に迫る。この辺りが一番急な所だろう。アイゼンがなければとても登れない。
天狗岳
天狗岳
 吹きさらしの岩場はなかなかスリリングだ。
 トレースも風で消え、ルートが読みづらい。とにかく、岩を乗り越え隙間をくぐり、時にはピッケルを使ってアイスクライミングの真似事をしながら岩場を進む。
天狗岳
天狗岳
 目の前が開け、東天狗岳の山頂が見えてきた。
 山頂まであと少し。
天狗岳
天狗岳
 到着! 東天狗岳山頂。
 東天狗岳より南側の眺望。八ヶ岳中央部の山々が見渡せる。
天狗岳
天狗岳
 こちらは北側。北八ヶ岳の様子。
 そして西側はこれから向かう西天狗岳。天狗岳最高峰は向こうの西天狗岳の方である。
天狗岳
天狗岳
 東西の天狗岳の間のコルに降り、西天狗岳を見上げる。
 コルまで降りると西天狗岳が風除けになるため、ビタリと風が止まる。
 西天狗岳のこちら側は風下側になるため、風はないが、その代わり雪が吹き溜まっており、なかなか登りにくい。それほど距離はないのだが、けっこう時間がかかってしまった。
天狗岳
天狗岳
 息を切らして登りきった西天狗岳山頂。
 山頂に出たとたんに正面から再び強風が叩き付ける。
 風の強い山頂を避け、少し戻って風のない斜面で休憩にする。
 ほんの数m移動しただけでえらい違いである。
天狗岳
天狗岳
 雄大な景色を眺めながら行動食を食べ、15分ほど休憩して下山にかかる。
 再びコルに降り、今度は東天狗岳を見上げる。
天狗岳
 さて下山のルートだが、上の写真を見てもらうと分かる通り、正規のルートは来た道をそのまま戻る、つまり再び東天狗岳に登り、稜線伝いに下るのだが、東天狗岳に登る手前に山腹をトラバースするショートカットらしきトレースがあった。
 見たところ、しっかりしたトレースで、これなら東天狗岳の急な登下降をパスできる。そう思ってショートカットのトレースを追うことにした。
 平行している稜線上の登山道はどんどん高度を下げてくるため、思った通り、ほとんど登らずに登山道に合流できるかと思われたが、もう少しというところでトレースが途切れた。
 試しにそのまま進もうとするとかなりの深みにはまり、やっとのことで抜け出したが、これ以上はとても進めそうにない。
 かなりの急斜面だが、10mも登れば上は登山道である。
 登山道に向かって直登を試みるがやはり雪が深すぎて登れない。
 ここで、持ってきたスーパーカンジキを使ってみようと思いついた。
  スーパーカンジキは、プラ製のワカンといったようなもので、660gと非常に軽い。
 今回のように、必要になるかどうか分からないが念のため持って行きたいという場合、スノーシューは重すぎるので、ワカンを持って行く人が多いのだが、私は通常のアルミ製ワカンより軽いスーパーカンジキを購入した。値段も5千円ちょっとと、非常にリーズナブルである。

 さて、急斜面の途中でアイゼンを脱ぎ、スーパーカンジキに履き替える。ワカンと異なり、こちらはアイゼンを付けたままでは履くことはできない。
 実はこのスーパーカンジキは、今回が初めての使用である。装着を終え、恐る恐る登り始めると、これが意外に使えることに驚かされた。
 アイゼンでは底なし沼のように沈んでしまい、まったく登れなかった急斜面を、苦労しながらもどうにか登ることができ、息を切らしながら登山道に這い上がることに成功した。

 写真を見てもらうと分かると思うが、スーパーカンジキは、フレームの断面が山形になっており、上から雪を押さえつける効果があるため、パイプフレームのワカンよりも浮力が高いと思われる。

 登山道に上がり、座り込んでまたアイゼンに履き替えているとヘリコプターの音が近づいてきた。見ると、長野県警のヘリが数十m先でホバリングし、搭乗員がこちらを見ている。搭乗員の顔がはっきり分かる近さだ。
 おそらく、周囲に誰もおらず、稜線上で座り込んでいる私が遭難者かどうか確認していたのだろう。心配してもらって有り難いのだが、さてどうしたものか悩んでしまった。こちらは大丈夫だと知らせたいが、下手に合図をして要救助の合図ととられても困る。
 仕方がないので、急いでアイゼンのベルトを締め、立ち上がって歩き始めた。
 ヘリの方もそれを見て安心したのか動き始め、周囲を2〜3度周回すると飛び去って行った。
天狗岳
天狗岳・黒百合ヒュッテ
 後は黒百合ヒュッテに戻るだけなのだが、来た道を戻るのもつまらないので、天狗の奥庭を通って行くことにする。朝、黒百合ヒュッテ前で会った2人が降りてきた道だ。
 この道はかなり岩場の割合が高く、まっすぐに歩けない上、ルートが読みづらい。
 また岩場特有の踏み抜きも多く、なかなか苦労するルートである。
 思ったよりも時間がかかり、15時40分頃、黒百合ヒュッテに到着。
 薄暗い小屋に入ると最初はよく見えなかったが、眼が慣れてくるとかなり人がいることに驚いた。
 荷物置き場は既にいっぱいなので、壁際に荷物を置き、自炊用のテーブルの隙間になんとか潜り込ませてもらう。
 隣の人と山談義に花を咲かせながら食事をし、コーヒーを飲んでいると、布団の割当が行われた。
 どうやら布団は一人一枚は確保できたので、とりあえずはゆっくり眠れそうだ。

2日目

天狗岳・黒百合ヒュッテ
 朝は4時に起きるつもりが少し寝坊して5時頃に起床。意外とよく寝られた。
 外に出てみると当然ながらかなり寒いが、星がきれいに見えている。
 上着も着ずに撮影を始めたため、あまりにも寒く、適当なところで切り上げて小屋に逃げ込んでしまった。
 荷物を整理していると、なんとアウターグローブが片方見当たらない。
 心当たりを探すが、あまり人の荷物のあるところをじろじろと探すのも憚られ、ある程度人が減るまで待つことにする。
 今日は中山を経由して高見石の方を廻って下山する予定だったが、グローブが見つからなければ予備のインナーグローブを2枚重ねにして最短距離で下山するしかないと開き直って、のんびりと朝食を摂る。

 そうこうしているうちにだいぶ宿泊客が出立を始めたので、改めてあちこちを探していると、小屋の受付カウンターの前に置いてある樽の中に落ちていたグローブを発見。薄暗い中に黒いグローブなので見落としていたようだ。
 時間は7時過ぎ。
 少し遅くなったが、急いで荷造りをして出立することにした。
黒百合ヒュッテ
黒百合ヒュッテ
 小屋を出ると前の斜面に陽が当たり、美しい。空には雲一つなく、それだけに寒いが気持ちの良い天気だ。
黒百合ヒュッテ
中山峠
 テント泊も多く、小屋周辺には5〜6張のテントが立っていた。
 歩き始めるとすぐに中山峠。昨日はここを右に折れて天狗岳に行ったが、今日は左の高見石方面へと向かう。
 やはり、ここまで来ると風が強まり、昨日と同じように顔を覆って完全武装スタイルとなる。
 ザックにつけている温度計を見ると、マイナス22度を指していた。
中山峠・天狗岳
中山
 中山峠から少し登ると、天狗岳のビューポイントがある。
 天気も良く、くっきりと見える天狗岳を撮影。
 木立の中の細道を歩いて行くと、ほどなく視界が開ける。おそらくこの辺りが中山だと思うのだが、山頂の標識が見つけられず、はっきりとは分からなかった。
中山展望台
中山展望台
中山展望台
中山展望台
中山展望台
中山展望台
中山展望台
 中山山頂を過ぎて少し行くと、目の前に絶景が開ける。
 中山展望台である。
 素晴らしい展望と樹氷に見とれ、寒さも忘れてしばし足を止める。
中山・高見石
高見石小屋
 木立の中から恐竜が顔を出す。
 黒百合ヒュッテから1時間30分ほどで、高見石小屋に到着。
 中で暖かいものでも頼んで休もうかとも思ったが、それほど疲れてもいなかったので、先へ進むことにする。
高見石・丸山
高見石・丸山
 ここを左に行けば渋の湯へ下山できるが、ここからだと丸山山頂が近いので、ここは右に行き、下山の前に丸山を登ることにする。
 丸山はあまり登る人も多くないようで、トレースはあるが踏み固めるほどではない。アイゼンのまま登り始めるが意外に雪が深いので、再びスーパーカンジキに履き替える。
高見石・丸山
賽の河原
 スーパーカンジキのおかげで難なく山頂へ。
 山頂は周りをぐるりと木に囲まれ、あまり展望は良くない。
 丸山を降り、下山にかかる。
 しばらく樹林帯を歩くが途中で急に視界が開ける。賽の河原である。
賽の河原
賽の河原
 賽の河原は思いのほか広い。ダイナミックな景色を眺めながらのんびりと下って行く。
渋の湯
渋の湯
 賽の河原を過ぎ、再び樹林帯へ。
 このあたりの道は川沿いである。上流の方では雪に埋もれていた川も、下るにつれて水面が見えてくる。
 連休にも入り、大勢の登山者とすれ違いながら11時過ぎに渋の湯へ到着。
山径独歩(やまみちひとりあるき)