2016年4月30日〜5月2日

「国土地理院発行の2万5千分の1地形図
(高妻山)」
ルートタイム
戸隠山は古くから修験者や忍者の修行場として知られる峻険な山である。中でも幅50cmほどの平均台のような岩を渡る「蟻の塔渡り」は一番の難所であり、岩場好きの私としては是非とも挑戦したい山の一つであった。
例によって夜中に家を出発。上信越道の信濃町で高速を降りて、下道を40分ほど走り、6時30分頃に戸隠神社奥社の駐車場に到着。すでに駐車場にはたいぶ車が駐まっており、準備に余念のない登山者も数人。
早速私も準備にとりかかる。
準備を終え、いざ歩き出そうとした時、隣に駐めた車の若い女性に声をかけられた。「すみません。ここはそんなガッツリした格好じゃないと行けないんですか?」
見るととても山を歩くような格好ではない。「どこまで行くの?」と聞くと「一番奥まで」と言う。
私も少々混乱したが、「もしかして神社?」と聞いてみると果たしてそうであった。周りにいるのは登山者ばかりなので、とんでもない所に神社があると思ったらしい。「神社なら大丈夫だよ」と答えて歩き出す。
戸隠神社奥社への鳥居。よく整備された参道が2kmほど続く。
参道の中ほどにある随神門。
戸隠神社奥社。お参りをし、しばし休憩。
観光客はここまで。ここからは歴とした登山道だ。
登っていくと、木々の間から戸隠山の稜線が顔を覗かせる。見るからに峻険な山容だ。
早速現れる鎖場。
岩壁がえぐれて通路のようになっている五十軒長屋。日陰で風が通り、快適である。
ここでしばし休憩をするが、なにしろ小虫が多く、耳や口や目に飛び込んでくるのには閉口した。
五十軒長屋から少し登ると百軒長屋がある。
次々と現れる鎖場。
長い鎖場を登り詰めると、戸隠山一番の難所、蟻の塔渡りが現れる。
幅50cmにも満たない岩の上を歩く。両側はスッパリと切れ落ち、バランスを崩せば間違いなく即死だろう。
無理なら股がって進むつもりだったが、なんとなく行けそうだったので歩いて見た。もちろん、ヤバくなったらいつでも跨がる体勢をとれるよう腰を落とし、視線は1〜2mほど先の岩へ。極力ピントを岩のみに合わせ、両側の下を意識せずに歩く。
途中で怖々下を覗いてみる。背中がゾクゾクする眺めだ。
半ばまで来て振り返る。
後続のパーティの2人は慎重に進んでいた。基本的にはこれが正解だろう。
蟻の塔渡りを通過し、少し登ってから見下ろす。上から見るとまた一段と凄く見える。
蟻の塔渡りから少し登るとほどなく八方睨に出る。ここは休憩に良い展望台だ。相次ぐ難所で疲れた体をしばし休める。
西側の展望、遠望できるのは白馬だろうか。
戸隠山山頂。もう目の前だが、一度下って登り返しだ。
八方睨から10分ほどであっけなく戸隠山山頂に到着。写真はヘロヘロの私。
山頂より八方睨を振り返る。バックには見事な北アルプス。
左の方に尖って見えるのは紛れもなく槍ヶ岳だ。
戸隠山からしばらくは崖際につけられた細道を進む。
蟻の塔渡りほどではないが、それでも一歩右側は数100mの断崖絶壁だ。場所によってはそれなりに緊張が走る。
戸隠山から50分ほどで九頭龍山に到着。
山頂はだいぶ混雑していたが、崖際を歩く緊張でだいぶ疲れたので、隙間に入れてもらい、しばし休憩を取る。
九頭竜山からもまだ鎖場が続くが、もう一つ無名ピークを越えるとやっと下りに入る。
こちらは北側斜面になるため、残雪がちらほらと現れる。暑いので、雪をすくって顔になすりつけるとなんとも気持ちが良い。
九頭龍山から1時間ほどで一不動に到着。この先の水場で休憩したかったので、ここはスルーする。
一不動の避難小屋のすぐ下はまだ雪渓が残っており、下山はこの雪渓を下らなければならないが、これがかなり急な雪渓でつぼ足では厳しそうだ。
今回はアイゼンを持ってきていなかったので、なんとかつぼ足で下りるしかない。
キックステップでと、かかとを打ち付けて見るが、意外に締まっていて歯が立たない。横向きになって、靴のエッジでこするようにしてどうにか足がかりを作りつつ下り始めるが、気の遠くなるような作業である。
下まであと10mほど。見るといいところに篠竹の茂みがある。そこまで行けばもう普通に歩けるだろう。そこで、その茂みを狙ってシリセードで滑り降りることにした。だいぶ勢いがついたが、篠竹の茂みに掴まってうまく止まることができ、雪渓をクリア。ただし、お尻はパンツまでびしょ濡れ。
すぐに水場があるはずなのだが、残雪のせいかよく分からない。
ただ、少し下ると道自体が川になっており、道脇の適当な湧き出している支流を見つけて休憩。腹を下す覚悟でガブ飲みしたが、幸い事なきを得た。
川(道)を下っていくと、いきなり目の前の道がなくなっている。
近づいてみると、川は滝になっており、その脇が鎖で岩を下りられるようになっている。
滝の横を下ると今度は大きな一枚岩のトラバースだ。
大きく口を開け、水を飲み込む雪渓。
ルートはその上を歩く。
何度も川を渡り返しながら進む。雪解け直後で道はだいぶ荒れており、なかなか苦労する場面も。
道がいつしか川から離れ、気がつくと目の前に柵が現れる。どうやら牧場の入口のようだ。動物が逃げないように互い違いに立てられた柵の間を抜けて中に入る。
平坦で開けた気持ちの良い牧場の中を突っ切って進む。
牧場を抜けると戸隠キャンプ場に入る。キャンプ場のトイレの脇に自販機があったので、冷たいスポーツドリンクを買って休憩。
もう山道は終わりだが、これから車道に出てそれを2kmほど歩かなければ車には戻れない。
車道歩きは好きではないが仕方がない。一服し、気を取り直して歩き出す。
車に戻ると、朝の雰囲気とは違い、すっかり観光地だ。いかつい登山スタイルが目立つのかジロジロ見られるのが決まりが悪い。
戸隠山はなかなか鎖場が多く、楽しい山だが、今回は少々暑さにやられた感があった。秋などは紅葉も良さそうだが、多分混雑は避けられないだろう。蟻の塔渡りなど、ツアーの団体がロープを張って通すため、ひどい渋滞を起こすという話も聞いている。
それでもあの岩の魅力は素晴らしい。時期を見て再び訪れたい山である。