山径独歩(やまみちひとりあるき)
2010年11月3日

「国土地理院発行の2万5千分の1地形図
(松井田)」

ルートタイム

1  国民宿舎出発       08:30
2  丁須の頭   10:30  〜  11:30
3  三方境   13:00     
4  国民宿舎到着   14:00     

 夏に槍ヶ岳に登った私は、これまで以上に岩登りが気になっていた。そんな矢先、読んでいた山の本で、群馬県の妙義山のルートが面白いということを知った。
 妙義山には表と裏があり、中でも裏妙義にある丁須の頭という山頂の岩は登れる人が少ないほどだというではないか。
 自分が登れるか登れないかはわからないが、とにかくおおいに興味をそそられ、早速行ってみることにする。

 朝も暗いうちに家を出発し、登山口にある国民宿舎付近に到着したのは7時30分ごろ。
 道端の駐車場に車を置き、5分ほど歩くと国民宿舎に着いた。
 すると登山客がみな国民宿舎の駐車場に車を入れているので聞いてみると登山客にも駐車場の利用を許しているとのこと。
 下山後にここで風呂に入るつもりだったので、近い方が良いと思い、いったん戻って車を移動させる。

 ここでトイレを借りて、さて歩き出そうとすると、警察の人が何人かいて呼び止められた。
 そんなに怪しい人に見えたとかとドキドキしながらそちらへ行くと、入山届を出すようにとのこと。
 差し出された用紙を見ると、食料や水の量、衣類や装備に至るまで非常に細かい内容まで書き込むようになっている。
 ずいぶん山にも登ったが、ここまで細かい書式は初めて見た。それだけ大変な山ということだろうか。

 入山届を出して歩き出す。
 それにしてもあちらこちらに、「体力、技術のない人は引き返してください」という看板が立っている。念の入った入山届けといい、少々恐ろしくなるが、ここまできて引き返す手はない。
 気を引き締めて登り始めた。
裏妙義
裏妙義
 国民宿舎から見上げる裏妙義。
 見るからに恐ろしそうだ。
 とにかく道がわかりづらい。
 岩のペイントを探しながら右へ左へ、時には川の中の岩を跳びながらひたすら前進する。
裏妙義
裏妙義
 通ってきた道を振り返って撮影したものだが、右側の大岩と正面の岩の間に丸太が挟まっているのが見える。
 実は正面の岩の奥にもう一つ岩があり、その間が2mほど離れている。下は数メートルの落差だ。
 その間を太さ10〜15cmほどの丸太で渡るのだが、この丸太が見るからに腐りかけているのだ。
 その今にも折れそうな丸太を、恐る恐る渡る。
 雨宿りができそうな岩の洞穴。
 中からは川が流れ出ていた。
裏妙義
 とにかく、「こんなところを行くの?」という場所が数えきれないほどあった。通常、鎖場とはいっても鎖は滑落防止のために補助的に使用するものであり、私などはできるだけ鎖に頼らず登るようにしているのだが、この山に限っては全面的に鎖に頼らざるを得ないところが随所にあった。

 だいぶ山頂に近づいた頃だと思うが、一度、完全に道を見失った。
 正しい道ですら道に見えないようなところが沢山あるので、行けそうなところはすべて道に見えてしまうのだ。
 かなりの傾斜の岩をほぼ四つん這いになって登って行くと、その先は薮になっており、道らしくはない。それでも見ようによっては獣道のような道に見えないこともなく、そこで激しく迷った。
 こんなときは安易に動かない方が良いと思い、軽く行動食を食べて落ち着いてから、周囲を見回してペイントやリボン、看板など、登山道の印を探す。
 しばらくうろうろしながら探していると、左手の谷を挟んだ反対側の高台に看板を発見。
 だいぶ手前から道を外れていたようだ。
 少し戻ると、どうにかショートカットして登れそうだったので、2mほどの土の崖を木の根を手がかりに登る。そこに足跡があるところを見ると、同じように迷った登山者がいたのだろう。もしかしたら上の薮の獣道もその登山者が迷った跡だったのかもしれない。
 どうやら正規の道に戻り、ホッと一安心してまた歩き出す。

 間もなく、ルンゼ状の急斜面を直登し始める。
 補助的にロープが下がっており、段差が大きい。まるで、身長5mの人間用に作られた階段のようだ。
 一段一段よじ登るようにしてようやっと登りきると、鍵沢コースからの出会いに出た。
 出会いとはいえ、崖の上の狭い場所で数人同士がすれ違うのも怖いような場所だ。
 そこを過ぎて左側の岩を回り込んでいくと、なんと壁に鎖がかかっている。
 のみならず、5mほど上には今度は横に鎖が…。
 どうやら、まっすぐに岩の壁を5mほど登り、そこから横にトラバースしていけということらしい。

裏妙義
裏妙義
 とりあえず登りきったところでなんとか撮影に成功。
 ここからトラバースしていくのだが、見ての通り足場らしい足場もない。
 わずかな岩の凸凹を足がかりに慎重にトラバースしていく。
 さてやっと丁須の頭の基部の取り付きである。
 上の方に丁須の頭が見えているが、迂闊なことに私はそれに全く気づいていなかった。
裏妙義
裏妙義
 気がつけばいつの間にかそこは丁須の頭の肩。半畳ほどの広さである。
 心の準備もなく、いきなり肩に登ってしまったので、気持ちの余裕がなくなってしまい、トップまで登る勇気が出なかった。残念。
 少し離れた所にもう一つのピークがあるようだ。
裏妙義
裏妙義
 登っているときは誰もいなかったのだが、下り始めた頃、後続の登山者が数組やってきて、狭い岩場は急に賑わい出した。
 丁須の頭の肩から見えたピークに登り、丁須の頭を望む。
 こうしてみると、なんとも不思議な造形である。
裏妙義
 元気のよい二人組の山ガール。
 トップまで登ろうかずいぶん長いこと迷っていたようだが、どうしたのかな。

 写真を見えもらえばわかると思うが、丁須の頭のトップには、垂直どころかオーバーハング気味の岩を鎖一本で6〜7m登らなければならない。
 当然ながら鎖に取り付くと肩から飛び出す格好になり、高度感は相当なものである。
 もちろん登り始めたら途中に休むところなどはなく、腕の力がなくなれば命はない。
 これは確かに相当な自信がなくては挑戦できないだろう。

裏妙義
裏妙義
 手前が赤岩、奥が烏帽子岩。これから向かうルートである。
 見るからに恐ろしげだ。
 少し休憩した後、縦走ルートを歩き始める。
 すると間もなく先行のパーティの声が聞こえる。
 「ほらもう少し右。そこに足をかけて。」どうやら鎖場での指示らしいが、行ってみると垂直の岩の裂け目を下っている。
 これが噂の20mチムニーか。
 写真では角度が分かりにくいが、完全な垂直降下である。
 先行者が下り終えるのを待って私も下り始めたが、所々まったく足場が見つからず、ほぼ腕力だけで下る場面もあった。
裏妙義
 さらにいくつか鎖場を超えていくと、とてつもない大岩にあたった。
 鎖が取り付けられているので、どうやらこれをトラバースして行けということらしい。
 なかなか高度感はあるが、本当に危険なところには網棚の足場があるのでそれほど危険はない。

 丁須の頭から歩くこと1時間30分ほどで、三方境に到着。
 このまま直進すれば谷急山への往復路である。地図上で見ても、三方境〜谷急山までの距離と丁須の頭〜三方境までの距離がほぼ同じであり、そこから考えると往復には3時間は見なければならないだろう。
 この時点で時刻は1時。
 これから谷急山まで行くと、暗くなる前に下山することは難しそうだと考え、今回は諦めてこのまま下山することにする。
 しかしここから谷急山までの道もなかなか面白いと聞いているので、いつかまた是非トライしたいものである。

 さてここからはひたすら下りである。
 しかし、傾斜が急な上に落ち葉が滑り、なかなか歩きにくい。滑落しないよう慎重に歩を進める。
 途中、沢登りをしているパーティを見かけたが、この時間からどこまで登るのだろう。

 それでもこの下りルートには特に鎖場もなく、1時間ほどで下山。
 しかし最後の、車道に出る手前に渡渉があった。
 少々きついものの、飛び石で渡れそうである。川を渡り、その先の崖をよじ登って車道に出るのがルートらしいのだが、ふと見回すと、まったく別の方向に「国民宿舎」という矢印があるではないか。
 地図で確認すると確かにそちらにいくと渡渉せずに国民宿舎に戻れそうである。
 早速そちらへ行ってみるが、あまり使われない道らしく、はっきりしない。
 獣道のような道をたどっていくと、200m四方ほどの林を伐採した広場に出、そこで完全に道を失ってしまった。伐採のときに道の痕跡も消えてしまったのだろう。
 しばらくうろうろしたが、よくわからない。
 下手をすると戻る道も分からなくなってしまいそうなので、広場に出てきた場所に目印を置き、とにかく方角を定めて歩き出した。そのまま広場の反対側まで歩くと、整備された砂利道に出た。国民宿舎から来る道である。
 考えてみればこれだけの規模の伐採をしているからには、重機の入る道があるに決まっている。それを踏まえて探せばもっと早く見つけられただろう。迂闊であった。

 そこからは5分ほどで国民宿舎に到着。
 早速そこで風呂に入り、さっぱりして帰路につく。
 帰りに食べたおぎのやの名物、横川の釜飯がうまかった。

山径独歩(やまみちひとりあるき)