きつい! でも楽しいロングルート
2019年7月30日〜8月2日

「国土地理院発行の2万5千分の1地形図
(黒部湖、十字峡、神城、白馬町)」
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ルートタイム

後立山連峰は、黒部渓谷を挟んで立山連峰の対岸に位置し、南は針ノ木岳から始まり、その北端は日本海に落ち込んでいる長大な連邦だ。
今回はアクセスの利便性もあり、扇沢から入山して八方尾根を下るルートを選択。当初は二泊三日の予定だったのだが、途中で少々ヘタれて1泊追加し、三泊四日の行程となった。
扇沢まではどうやって行こうかと迷ったが、やはり新宿からの直行バスが一番楽なようだ。昔は高速バスは予約が大変で、直前の予約も難しく、天候に左右される登山には使いにくかったのだが、最近ではスマホから簡単に予約ができるようになり、使いやすくなった。
今回も天気と予報とにらめっこしながら毎日予約状況を確認し、ちょうど仕事の都合と天気がバッチリあったところにキャンセルの空きが出たので、すかさず予約。これで日程が確定した。
当日は、20kgのテン泊装備を担いで出勤。仕事を終えてからその足で新宿へ。
バスの発車は深夜なので、それまでネットカフェで仮眠をとって待つことにする。
バス停は駅の反対側なので、時間に余裕を持って出たつもりだったのだが、田舎者の悲しさで、地下道とビルの谷間でスマホのGPSが機能せず、道に迷ってしまった。焦って歩き回った末、なんとかバスの出発に間に合う。すでに登山前から汗だくだ。
バスの中では眠ったような眠れないようなウトウト状態で、それでも気がつくと扇沢に到着。バスを降りて冷たい水で顔を洗うと、どうやらシャキッとしてきた。
いよいよ登山開始だ。
1日目
扇沢駅は3度めだ。一度目は剣岳、二度目は下ノ廊下。今回はトロリーバスには乗らず、ここから歩き始める。
扇沢駅から20分ほど歩いて登山口へ。登山口では早朝から指導員が詰め、登山届のチェックを行っていた。
登り始めてちょうど一時間。八ツ見ベンチで休憩。扇沢駅がだいぶ下に見える。
稜線の種池山荘までの登りは、最初尾根伝いに急登を登り始め、途中から一旦トラバースの道に入る。ここで少し楽になるが、最後にまた急登を登る。これが長丁場の後で非常にきつい。
雪渓のそばは涼しく、休んで行きたかったが、狭くて良い場所がないので、諦めて先へ。
5時間ほど登って、やっと最後の大登り、鉄砲坂だ。ここまででだいぶ体力を消耗していたのと、寝不足もあり、フラフラになりながらもなんとか一歩一歩登っていく。
やっとの思いで種池山荘に到着。
情けない話だが、種池山荘についたときはかなりグロッキー状態。正直、今日はここのテン場で泊まってしまおうかとすら考えた。
とりあえず、山荘でラーメンを頼んで昼食にし、ベンチでウトウトと小一時間昼寝をする。
それが良かったのか、だいぶ元気が回復したので、予定通り冷池山荘まで行くことにし、爺ヶ岳の登りに取り付いた。
爺ヶ岳南峰へは一直線の登りだ。近く見えるが、これがなかなかにキツい。
種池山荘から小一時間で爺ヶ岳南峰に到着。
そこから更に歩を進め、爺ヶ岳中央峰へ。
このあたりで、ちょうど雲がかかったらしく、濃いガスに包まれて小雨もパラつき出した。
様子を見つつ、降り続くようならカッパを着なければと思っていたが、数分で雲は去り、また晴れ間が覗く。
短いスパンで晴れたり降ったり、まさに山の天気だ。
やっと冷池山荘が見えてきた。その先には今日の目的地のテン場も見える。だが、まだここから1時間はかかりそうだ。まだ気は抜けない。
やっとのことで冷池山荘に到着。テント場の申込みをしてトイレを借り、少しだけのんびりしてからテント場へ向かう。
ここのテント場は小屋から少し離れており、5分ほど歩く。テント場にはトイレや水場はないので、ここでしっかりと補給しておかなければ面倒だ。
テント場はそこそこの広さはあるが、平らなところが少ない。いろいろと物色して、隅っこの方にそこそこ平らなところがあったので、そこに決める。隣のテントと少々近いのが申し訳ないが、挨拶をして張らせてもらう。
写真のようになかなかの絶景の場所だ。
1日目は前半の急登でバテて種池山荘で1時間半も休憩をとったこともあり、だいぶ時間がかかってしまった。テント場に到着したのが5時近くなってしまい、早々に食事をしてテントに潜り込む。
どうせこの天気では星は見られないだろう。
2日目
5時過ぎに目を覚まし、テントから這い出すと、目の前に広がる雲海に思わずため息が出た。
簡単に食事を済ませ、早く出発したかったのだが、やはりトイレに行っておかないと不安だったので、荷造りだけしておいて一旦山荘まで戻る。
用を足してまたテント場に戻り、いざ出発。時刻は5時45分。既にテント場にも陽が射し始めた。
立山連峰も少しだけモルゲンロートしていた。
歩き始めてまもなく、今日の最初のピークである布引山が見えてくる。厳しそうな登りに少々怖気づく。
登りに差し掛かるも、やはりきつい。朝一番でまだ体が温まっていないので極力ゆっくりと登る。
布引山山頂に到着。ガスの中にうっすらと見えるのは、次の目的地、鹿島槍ヶ岳南峰だ。
少し登ってから布引山を振り返る。なかなかの高度感である。
少し後ろを歩いている年配の登山者は、このあたりから後になり先になりしているうちにすっかり親しくなり、鹿島槍ヶ岳北峰まで同道することになる。
この鹿島槍ヶ岳の登りはなかなか展望もよく、気持ちの良い径だ。
布引山から小一時間の登りで、鹿島槍ヶ岳南峰に到着。ここで休憩しながら先ほど親しくなった方と登山談義に花を咲かせていると、女性二人のパーティーもそこに加わり、さらに賑やかになる。
単独行の自分はこんなささやかな人との出会いが嬉しい。
雲に覆われていた剣岳が一瞬顔を出してくれた。
ふと見ると、歩いてきた稜線の東側に雲がせり上がってきていた。
その向こうに小さく見えるのは大好きな槍ヶ岳だ。
30分ほど談笑し、そのまま4人で北峰を目指すことにする。南峰と北峰の間はなかなか高度感のあるスリリングな岩場だ。
雲の向こうには今日の目的地である五竜岳も見えている。それにしても遠いなあ。
鹿島槍ヶ岳南峰から北峰までは30分ほど。だいぶ北峰山頂が近づいてきた。
鹿島槍ヶ岳北峰山頂に到着。
ここまで4人で即席のパーティーを組んできたが、年配の男性はここから引き返し、女性二人は自分と同じルートだが自分はテン泊装備でペースが合わないため、短い間だったがパーティーはここで解散。
しかし、この二人の女性とは今後も要所要所で顔を合わせることになる。
女性二人は先に出発し、自分はもう少し休んでから北峰を出発。ここからは八峰キレットに向かってひたすら急峻な下りだ。岩場をトラバースするような形で下っていく。
こんな岩場も随所に出てくる。
鹿島槍ヶ岳北峰から1時間ちょっとの下りで八峰キレットへ。ここは大キレット、不帰キレットとともに日本三大キレットの一つに数えられており、高度感のある岩場を通過する。
しかし、距離も短く、難易度的には三大キレットの中でも最も低いと思われるが、それでも重大事故等も起きているので気を抜かず、慎重に通過したい。
自分が通ったときはガスが濃くて下が見えなかったため、それほど高度感を感じることはなかった。
高度感のある場所を通過して振り返る。なかなか緊張するトラバースだ。
とラヴァースを終えて地味にスリルがある短い梯子を登ると、眼下に見えるのは狭い場所に建っているキレット小屋だ。よくこんな所に建てたものだと思う。
ここからはほぼ崖になっている径を下って小屋へ降りるのだが、意外と足場が悪くて注意が必要だ。
この時点で時刻は11時過ぎ。
今日の目的地の五竜山荘まではルームタイムで約5時間で、スムーズに行っても到着は16時。さらにガスはどんどん濃くなり、遠くで雷の音もし始めている。
これはもう無理をしないほうが良いと考えたが、残念ながらここにはテント場はないので、キレット小屋の受付に行って、「予約してないけど泊まれますか?」と尋ねてみる。
対応してくれた若いスタッフは一度奥に確認してから快く承知してくれたので、今日はここでのんびりすることに決めた。
宿泊の手続きをしていると、さっきの女性二人が廊下を通りかかり、挨拶を交わす。彼女たちも今日はここで宿泊のようだ。
受付を終え、寝場所を聞いて行ってみると、なぜかそこだけ一人分の場所が狭い。他のブースが5人分の寝具があるのに対して、そのブースだけ同じ広さに9人分の寝具が敷き詰められている。
後からそこに来た人にも聞いてみると、皆予約なしとのことで、どうやら飛び込みの客はこのブースに入れる決まりらしい。
中には文句を言っている人もいたが、大多数はかえってこれを面白がり、他のブースの客に「俺らは罰部屋だよ!」などと笑い飛ばしていた。
この日は午後中暇な時間だったが、そんなこんなで和気あいあいと楽しく過ごし、あっという間に時間が過ぎていった。
3日目
4時に目が覚め、軽く朝食をとって荷造りをし、5時30分頃に小屋を出る。
まだガスは垂れ込めているが、昨日ほどではない。予報では今日の天気は快方に向かっているとのことだったので、安心して歩き始める。
ここからはすぐに梯子や鎖場の連続する岩場が始まる。見通しの悪いガスの中、岩のペンキ印を見落とさないよう、また濡れた岩で滑らないよう慎重に進む。
日が昇ってくるにつれ、予報通りガスが取れ始めた。
振り返ると鹿島槍ヶ岳も顔をのぞかせていた。
これから五竜岳までの道のりが一望で見渡せる。素晴らしい展望だが、なまじ見えると距離を感じて気が遠くもなる。
キレット小屋から五竜岳までのほぼ中間地点、北尾根の頭に到着。ここでスマホの電波が入ったので、帰りのバスを予約する。念の為と思って予約をしていなかったのだが、やはり行程が1日伸びてしまったので、正解だった。
ふと見ると、鹿島槍からの稜線の東側だけに雲が溜まっている。しばらく見ていたが、この雲が稜線を越えることはなかった。なかなか面白い景色だ。
北尾根の頭のすぐ先では、登山道で雷鳥が雛鳥を遊ばせていた。驚かさないようにしばらく足を止め、その様子を眺める。雷鳥は何度か見ているが、雛を見たのは初めてだ。
梯子や鎖場をいくつも越えつつ、じわじわと歩を進めていく。
いつしか、五竜岳も近づき、最後の急登が目の前に迫ってくる。
五竜岳の最後の登りはまるで壁のようだ。長い登りは20kgのザックの重さが脚に来る。
きついが、距離としてはそれほどでもなく、どうやら五竜岳の山頂に到着。
鹿島槍ヶ岳で出会った二人の女性パーティーがちょうど休憩を終えて出発するところで、お互いに無事登頂を喜び合う。
残念ながらガスで展望はないが、せっかくなのでコーヒーを淹れて一服し、五竜山荘への下りにかかる。こちらの下りもどうしてどうしてなかなかの難所だ。
山頂から五竜山荘まではすぐかと思っていたが、以外に時間がかかり、30分ほど歩いてようやく山荘が見えてくる。
11時20分頃、ようやく五竜山荘に到着。ちょうど昼時なので、山荘でラーメンを注文し、腹ごしらえ。
たっぷり休んでから五竜山荘のすぐ裏にある白岳に寄り道をして、今日の目的地である唐松山荘へと出発。ここからルートタイムで3時間ほどの距離である。
ここまでの難所とは打って変わって、目の前には胸のすくような気持ちの良い径が続いている。
五竜山荘から唐松岳のほぼ中間地点のあたり。大黒岳の看板を発見。どうやら山頂へは立入禁止のようなので、ここで大黒岳はクリヤしたことにして先に進む。
しばらくの間、なだらかな稜線歩きを楽しんでいたが、唐松岳が近づくと、やはり急峻な岩場となる。なかなか高度感のある岩場が続くが、これを越えればもう目的地はすぐそこなので、気合を入れ直してアタック。
息を切らしながら岩場の難所を進み、少し高さのある岩を登ってその岩の上に顔を出したとき、いきなり目の前に唐松山荘が出現した。予期していなかっただけに嬉しさもひとしおだ。
早速テント泊の手続きをして、テント設営にかかる。ここのテント場は小屋の前を下った斜面の途中に点在している。
運良く、それほど下に行かない所に場所を見つけることができた。それでも急な斜面をつづら折りに登っていかなくてはならないため、水補給やトイレのために小屋に行くのは一苦労である。
写真左はテント場から眺める唐松岳。右は唐松山荘だ。
唐松岳の山頂にはどうしようかと迷ったが、どうせなら朝に山頂からご来迎を拝もうと思い、この日はテン場でのんびりすることにした。
4日目
4時に目を覚まし、テントから這い出すと、周りは濃いガスに包まれて展望はゼロ。
これでは御来光は無理かとも思ったが、どちらにせよ山頂は踏んでおきたかったので、ヘッドランプを点けて山頂へ向かう。
30分程で山頂に到着。もう日の出間近なはずだが一向に明るくなってこない。日の出の時刻も過ぎ、しばらく粘ってみたが、少し明るくはなったものの濃いガスに包まれたままで太陽も展望もまったく望めないので諦めて撤退。
テント場に戻る途中、鹿島槍から同じルートで来ていた二人組の女性の一人とすれ違う。挨拶をすると、彼女はここから一人で不帰ノ嶮へ向かい、相方は八方尾根から下山するとのこと。「ガスが濃いから気をつけて」と別れを告げ、自分もテント場に戻りテントを撤収して下山にかかる。
自分も八方尾根から下山なので、もう一人の女性とはどこかで会うだろう。
八方尾根の下山口は小屋の裏側だ。
下山を始めると少しの間ちょっとした岩場を通過する。
下っていくうちに雲を抜けたらしく、視界が開けてきた。
振り返ると、山頂はやはりまだ雲の中だ。
眼下に大きな雪渓が姿を現す。扇雪渓である。雪渓の下で大勢の登山者が休憩しているのが見える。自分もあそこで休憩しよう。
雪渓の下は雪渓から吹き下ろす風が涼しく、火照った体を冷ましてくれる。いつまでも動きたくなくなるほどだ。
ようやっと八方池に到着。このあたりまでは登山客以外に散策の人たちも来るようで大勢の人で賑わっている。
人が多すぎて休む場所がなかなか見つからなかったが、やっと腰を下ろせる場所をみつけ、しばし休憩。
ここから少し行くと、あとは歩きやすい木道が続き、景色を楽しみながら下っているうちにいつしか八方池山荘へ。あとはリフトを3本乗り継いで八方駅まで下り、そこから八方バスターミナルまで15分ほど歩いて今回の行程は終了だ。時刻は10時30分。バスは14時過ぎなので、バスターミナルの隣りにある八峰の湯でのんびりと4日間の汗を流し、さっぱりして予約した新宿行きの高速バスを待つ。
長くてきつい行程だったが、その分、ゴールしたあとの充足感は格別だ。